生体分子の機能発現において、生体分子およびその集合体に設計されている構造柔軟性は欠くべからざる要素で有り、その発現には動的水和構造が深く関わっている。平成25年度は、第1に含水量の変化により相転移がひきおこされるヌクレオチドやクロモリンナトリウム等の水和物結晶について、低温での水の凍結に伴う相転移の解析をおこない、水の揺らぎと構造転移の相関を明らかにした。また、カウンターイオンを変えることにより、水和水と生体分子集合構造の揺らぎを制御する試みをヌクレオチド水和物結晶について行い、制御の指針を得た。第2に微結晶しか得られない試料について、粉末中性子回折データから水和水の水素原子の位置情報を得るための解析手法の検討を行い、マキシマム・エントロピー法(MEM)等を用いた解析手順を確立した。特徴有る水和水の揺らぎの存在が、相転移実験および分子動力学計算より予測されていたグアノシン2水和物について、この方法を適用し、水和水の揺らぎについて、予測を支持する結果を得た。第3に昨年度中性子回折データの収集を行ったシトクロムc等のデータを用いて、タンパク質の中性子構造解析より揺らぎの大きい水和水についての情報を得るための手法の検討を進めた。今後、3年間の研究の成果を基に、分子動力学計算を併用した解析を進め、生体分子およびその集合体の全体振動へ水和水が及ぼす効果に焦点を絞り、生体分子と水和水の相関の特性をより明確化していきたいと考えている。
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