研究課題/領域番号 |
23540479
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
梅村 和夫 東京理科大学, 理学部, 准教授 (60281664)
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キーワード | 生体分子認識 / 原子間力顕微鏡 / カーボンナノチューブ / DNA / 蛋白質 |
研究概要 |
本研究は、カーボンナノチューブ(CNT)をDNAに形状のよく似た担体と捉え、CNTをDNAのダミー分子として用いることで、生体分子の分子認識能を精査するのが目的である。昨年度の研究から、DNA、CNT、DNA結合蛋白質の混合系において、当初予想していたより複雑な挙動がみられることがわかっている。このため、本年度は、組み合わせを単純にして測定結果の解釈をしやすくすること、および電気泳動、液中原子間力顕微鏡(AFM)観察、表面電位測定、ノンコンタクトモード観察などの手法を用いた試料の検証実験を手厚く行った。また、蛋白質としては、モデル分子と考えているRecA蛋白質、およびその関連タンパク質であるSSB蛋白質を用いた複合体について種々の条件での試料作成と評価を行った。その結果、顕微鏡観察だけからではなく、電気泳動のバンド位置から複合体の状態(CNTに生体分子が吸着したかどうか)を明確に知ることができた。また、本補助金で購入した装置を用いた表面電位測定からは、CNTに共有結合で結合させた場合に表面電位が反転する現象が見られた。液中AFM観察での評価については、昨年度すでに複合体の直径が増加するとの結果を得ていたが、さらに今回は大気中ノンコンタクトモードによる計測も行い、同一複合体の直径が、液中、大気中ノンコンタクトモード、大気中タッピングモードの順で小さく見えることがわかった。この結果は、CNT表面での分子の自由度が大きいことを示している可能性がある。RecA蛋白質、SSB蛋白質については、DNA-CNT複合体に対していずれも吸着するのではないかとの結果を得た。ただし、いわゆるRecAフィラメントの形成は今までに行った組み合わせでは見られていない。この現象をさらに精査すると、RecA蛋白質やSSB蛋白質の分子認識能の寛容さが明確になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の2年目は4報の査読付投稿論文を採択に導くことができた。一報は種々の組み合わせによってDNA-CNT複合体を作製した場合に、組み合わせに依存してどのように構造に違いが表れるかをナノ計測した内容である。この結果によって、今後この研究を効率よく進めるための基礎的な情報を得ることができた。一報は、あらかじめ表面修飾したCNTに対しDNAを吸着させ、次に熱することでDNAを脱離させたという内容である。いったん吸着させた生体分子を意図的に脱離させた例はほかになく、分子認識研究はもとより、バイオデバイス等へのDNA-CNT複合体の応用に際しても重要な知見である。一報は、種々の複合体について表面電位計測を行った結果、複合体の状態によって電位の反転が見られたとの内容である。一報は、複合体作成時に界面活性剤を用いた場合の影響について調べた内容である。これらの内容について、それぞれ学会発表やウェブからの情報発信も行った。このように、本補助金を用いた研究成果の外部発表が進んでおり、おおむね順調と考えている。一方、CNTが一様でないこともあり、吸着現象の解釈は慎重に行う必要があることもわかってきた。前述の研究成果は、議論しやすいところをまず議論するというスタンスでまとめたものである。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、RecA蛋白質、SSB蛋白質を用いた複合体の作製と評価に集中する予定である。これまでの実験から、RecA蛋白質、SSB蛋白質ともに、DNAで表面コートしたCNTの表面に結合すると考えられるが、RecAフィラメント等の形成が確認できていない。形成する条件があり得るのかどうか、あるとすればどのような場合か、ないとすればその主な原因は何か、を追求して本研究のまとめとしたい。実験の方法としては、AFM測定(液中観察や表面電位測定を含む)、電気泳動、スペクトル測定に加え、電子顕微鏡観察も行いたい。また、最終年度は外部発表にさらに注力し、複数の国際学会に登壇するほか、複数の査読付論文発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度にあたるので、備品の導入は予定していない。試薬等消耗品の購入経費、論文・学会発表にかかわる経費を主に予定している。研究補助の雇用も予定しているが、適切な人材でないと効果が薄いので、適任者がなければ消耗品の購入に充てたほうが効率良いと考えている。
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