アロステリー現象の解釈に適する古典論のMonod-Wyman-Changeuxは,四量体のヘモグロビン(Hb)において説明が十分できると思われてきた。一般,Hbは,二つの状態/構造に存在する。リガンドへの親和性の低いリガンドが結合していない T-状態およびリガンドへの親和性の高い リガンドが飽和する R-状態。それぞれ,四量体でしか取れない構造である。酸素は徐々に結合するととともにHbがT-からR-状態に変化しつつ協同性が生じる。本研究では,Hbにおける最少アロステリック単位を探ることにした。高濃度の双極性両親倍性を有する溶質を含めた溶液を用いて,分子解剖のような作業を行った。つまり,上記の溶質の効果においてα2β2四量体Hbをαβ二量体に分解し,その酸素結合特性等を調べた。その結果,古典論に反して,二量体にも協同性が見られた。驚いたことに,この二量体の親和性は,四量体のT-状態とR-状態の中間であった。 高濃度のヨウ化物イオン(I-) の存在下では,Hbの酸素結合能を調べたところ,上記の双極性両親倍性溶質と同様な効果が見られた。ヨウ化物イオンは,イオン直径が大きいことから電化密度が低いため,その電気陰性度はそれほど低くない。ヨウ化物イオンは,双極性両親倍性溶質と似たような影響を与え,α2β2Hb四量体を高濃度の溶質の疎水部分の相互作用のため二量体化したと考えられる。この効果は,溶質を脱したらHbは天然と同様な特性を示した。 以上の結果から,高濃度の双極性両親倍性溶質またはヨウ化物イオンの存在下では,四量体のアロステリック蛋白質が二量体に分解ができ,その二量体にもアロステリー現象が観察できた。 一方,二量体化への影響を調べるためにαβ界面におけるピリジル系試薬によって化学修飾を行ったうえ,Hbの酸素親和性は極めて低下したと観察された。その理由,T-状態が安定化されたことなく,αβ界面自体が親和性の調整機構を有すると示唆された。
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