研究課題/領域番号 |
23540484
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
小林 敬道 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20260028)
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キーワード | 衝撃圧縮 / 発光 / 粉末物質 / 熱放射 |
研究概要 |
前年度において、粉末試料からの衝撃誘起発光は試料のルミネッセンスあるいは熱放射のいずれでも説明できないことがわかり、発光性物質特有の衝撃誘起現象でないことが明らかになった。今年度は発光特性、特に衝撃強度依存性とスペクトルプロファイルを詳細に調べた。その結果、この発光は熱放射である可能性が高いことが判明したが、非常に弱い衝撃圧縮でも数千度に相当する熱放射が観測されることから、前年度の予測通り粉末試料自体の熱放射では説明できないという結論が再確認された。試料空間に存在する粉末試料以外の物質は残留ガス(通常は空気)のみである。粉末試料が衝撃圧縮されると瞬間的に試料は超高圧状態になる。この時、粉末中の空隙に存在するガスも試料と同じ程度の超高圧状態に断熱圧縮されると考えられる。この場合のガスの温度を計算すると発光スペクトルが示す温度とよく一致することがわかった。この結果、衝撃誘起発光は断熱圧縮による残留ガスの熱放射である可能性が高まった。但し、粉末粒子間の摩擦による発光など、他の可能性をすべて排除した訳ではない。そこで上記仮説の真偽を確かめるために、残留ガスを除去したサンプルでの実験を開始した。これまでの所、この仮説を支持する実験結果が得られつつある。 更に、詳細な実験及び解析の結果、試料によっては衝撃誘起発光には残留ガスの熱放射以外の成分が含まれる場合があることが明らかになってきた。この発光は発光性粉末試料(蛍光体など)の場合にのみ観測されており、熱放射のようなブロードな発光ではないことなどから、衝撃波で誘起されるルミネッセンスの一種である可能性があり非常に興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粉末試料の衝撃波誘起発光の発現機構をほぼ特定できたので、本年度は大きな進展を遂げたと考えている。但し、他の可能性を完全に除外できてはいない点、また、熱放射以外の他の発光成分の存在する可能性が高い点、などの課題が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
特定した発現機構が真に正しいものであることを支持する実験結果をできるだけ多く蓄積する。最も望ましい実験は、残留ガスを完全に取り除いた粉末試料のみのサンプルを用いて実験を行い、その結果をガスを含むサンプルの結果と比較することである。真空ポンプ等を利用して、粉末試料を脱ガスすることは予想以上に難しいことがこれまでの試みからわかっているが、粉末試料内の空隙にガス等他の物質を含まない試料を用いた実験をする方策を考え実施したい。 熱放射以外の発光成分の存在が事実だとすれば、非常におもしろい結果であり、衝撃波により誘起される未知の発光現象である可能性もある。発光現象の機構解明に向けた実験を開始する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究で実施している衝撃圧縮実験は、衝突を利用した超高圧実験であるので一回の実験で破損する部品が多い。そのため、研究費の大部分は光学部品や衝撃装置を運転するための部品等の消耗品に費やす予定である。
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