研究課題/領域番号 |
23540485
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
日置 幸介 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30280564)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | GPS / 電離圏 / 可降水量 / 地震前兆 / 気候変動 / 積雪 / マルチパス / 全電子数 |
研究概要 |
日本列島に展開された稠密な連続GPS観測網を用いて様々な成果を上げることができた。それらを1)地震に伴う電離圏の変動、2)GPSアンテナ周辺の環境計測、3)水蒸気の変動からみる気候学的な解析、の三つに分けて記述する。1)昨年三月の東北地方太平洋沖地震の一時間前から震源上空で電子の数が増加する現象を見いだし、さらに過去の海溝型巨大地震(2004年スマトラアンダマン地震、2010年チリ地震)でも同様の現象が生じていたことを見いだした。本成果は米国の速報誌GRLに2011年9月に掲載され、当該雑誌でダウンロード数2位を記録するとともに、内外のメディアでも頻繁に取り上げられて話題となった。2)GPSアンテナに入射する直接波と地面で反射された波の干渉パターンからアンテナ高を推定する手法を確立した。その応用として等価的にアンテナ高を下げる積雪の深さを推定することに成功した。本成果は測地学の専門誌J. Geodesyの2012年最初の号に掲載された。3)GPSで推定された大気中の水蒸気の積分量(可降水量)の長期変化を解析し、エルニーニョや太平洋十年周期変動などの様々な気候変動に由来する変動を見いだすことができた。この成果は測地学会誌に投稿し、現在査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画段階では想定になかったマグニチュード9の巨大な地震がGPS網が存在する日本国内で発生したことに伴い、当初の計画になかった地震前兆を明瞭に稠密GPS連続観測網を用いて捉えることができ、GPS網の重要な応用として新たな発展を見せた。東北沖地震の前兆は国内主要新聞の全てで取り上げられ、BBCを含む内外のテレビでも特集が組まれた。また当初の計画にあったGPSのマルチパスを用いたアンテナ周囲の環境の計測、およびGPSで計測した可降水量の長期的な変化を捉えるという課題に関してはほぼ当初の計画どおりの進捗を見せた。成果の論文発表も順調に進展を見せている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はマグニチュード9クラスの三地震に関して、地震直前に電離層全電子数に前兆が生じることを示したが、新年度は過去のマグニチュード8台の地震前後のGPSデータを解析することにより、どれ程小さい地震で同じような前兆が生じるかを把握することが目標である。現在1994年北海道東方沖地震(M8.3)、2006年千島地震(M8.2)、2007年スマトラ・ブンクル地震(M8.6)等について、GPSデータを入手したので鋭意解析中である。またアンテナ周囲の環境計測の一環として、積雪深度に代わって潮位の計測が出来ないかを検討中である。既に海のごく近傍にあるGPS局を選定し、予備的解析を始めたところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度予算で、既に計算機は整備したので、今年度の研究費は予定通り国内外の学会研究会での発表にそのかなりの部分を用いる予定である。具体的な国際学会としては7月のCOSPAR(インド、マイソール)、8月のAOGS(シンガポール)、12月のAGU(サンフランシスコ)の諸学会で発表を予定している。前二者に関してはいずれも招待講演が確定しており、本科研費の課題に関する発表を行う予定である。さらに国内では5月の地球惑星関連学会連合大会、10月の地震学会、11月の測地学会等で研究発表を予定している。また本課題に関連する研究を行っている大学院生の出張にも本研究費から支弁を予定している。なお、H23年度の20万円あまりの未使用額の発生理由として、H23年10月に参加した国際学会(フランスおよび中国)において、丁度その額と同等な(2000Euro)旅費の補助をパリ第七大学から受けることができたためである。これは筆者の研究の注目度が予想を超えて高かったため旅費込みの招待講演という形を取ったことによる。これはH24年度に繰り越し、計画策定当初には予定されていなかったCOSPAR学術総会への出張(これも招待講演だが旅費補助なし)に用いる予定である。
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