研究課題/領域番号 |
23540493
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
寺川 寿子 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (30451826)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / ドイツ / スイス / イタリア / 間隙流体圧 / 応力 / 地震 |
研究概要 |
余震は,世界の至る所で古くから観測されている現象であるが,その発生メカニズムは未だ解明されていない.地殻内の現実的な間隙流体圧場の時空間変化を推定することは,この問題を解く鍵となる.地震メカニズムトモグラフィー(FMT)は,地震のメカニズム解から地殻内間隙流体圧場を推定する手法である(Terakawa et al., 2010).初年度であるH23年度,代表者の寺川はドイツ・ボン大学のStephen Miller教授とスイス・ETHのNicholas Deichmann教授と共に,本手法をスイス・バーゼルの地熱貯留層での注水実験(Häring et al., 2008)で誘発された地震データ(Deichmann and Ernst, 2009)に適用し,制御された水圧履歴と解析結果を比較することを通じて,手法の有効性を定量的に示すことに成功した.バーゼルの解析は,世界に先駆けて,誘発された地震の規模と間隙流体圧や断層に働く剪断応力の関係を定量的に評価した研究であり,解析結果そのものに大きな価値がある. 次に,FMTを発展させるため,新しい機能の開発に着手した.具体的には,オリジナルな手法では,応力場の空間変動や間隙流体圧の時間発展を考慮することができない.H23年度は,まず,応力場の空間変動を考慮する機能を追加開発した.一方,間隙流体圧場の時間発展解析機能についても開発を開始しており,H24年度も継続して開発を行う.また,改良した手法を,2007年能登半島地震の余震データに適用し,震源域の3D間隙流体圧場を推定することに成功した(Terakawa, 準備中).さらに,2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震の余震・誘発地震のメカニズムについて,余震の発生と間隙流体圧の上昇との関係を調べる研究も開始した(Terakawa et al., 準備中).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2006年12月2日~8日,スイス・バーゼルで地熱発電所開発のための注水実験が実施された.本研究では,この注水実験により誘発された118個の地震のメカニズム解にFMTを適用し,バーゼル地熱貯留層内の間隙流体圧分布を推定した(Terakawa et al., under review).推定された間隙流体圧の時間発展は,井戸で加えた水圧の履歴と調和的であった.これにより, FMTが地殻内流体圧を推定するうえで有効な手法であることが定量的に確認できた. 本研究の結果,誘発された地震の規模と間隙流体圧や断層に働く剪断応力の関係が定量的に評価できるようになったことは,地震学のみならず,地質学や地熱開発に関わる工学の分野に対しても大きく貢献したといえる.地震を誘発した間隙流体圧の平均的な値は10MPa程度であり,これまで流体拡散モデルで推定されてきた値より数桁大きな値であることがわかった.また,高圧間隙流体は断層の強度を低下させ地震を誘発する役割を果たし,一方,大きな破壊スケールはテクトニック応力に支配されていることがわかった. また,応力場の空間変動を考慮する機能を追加したことにより,より広い領域での間隙流体圧場を推定することが可能となった.改良法による能登半島地震震源域でのFMT解析の結果,本震震源付近に高圧流体層があったことを示しており,これは電磁伝導度の解析法であるMT法や地震波トモグラフィーの結果の示唆する流体の存在位置と大変調和的であった.
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今後の研究の推進方策 |
H23年度から継続して,地震メカニズムトモグラフィーに間隙流体圧場の時間発展解析機能を追加開発する.従来の解析プログラムでは,Yabuki & Matsu'ura (1992) によって開発されたベイズ型モデルとモデル選択規準であるABIC(Akaike, 1977, 1980)を用いたインバージョン法を応用し,3次元間隙流体圧場を対象領域で定義された連続関数として推定誤差と共に求めている.間隙流体圧場の時間発展を推定するためには,Yabuki & Matsu'ura (1992) の手法の代わりに,Fukahata et al. (2003) 及びFukahata & Matsu'ura (2004)で開発されたインバージョン手法を応用する. また,大地震後の間隙流体圧場の時間発展を詳細に調べるためには,大規模な行列計算を行う必要がある.このため,並列計算機用の線形ライブラリーであるScaLAPACKを用いてプログラムを並列化する. 開発したプログラムを用いて,2009年12月以降にラクイラ地震震源域で発生した時間的にも空間的にも高密度な地震のメカニズム解,約700個を解析し,本震前後約8カ月間の3次元間隙流体圧場の時空間発展を推定する.地震メカニズムのデータは,研究協力者であるイタリア・INGVのChiaraluce博士から提供してもらう予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
・15000×15000程度のサイズの大規模行列計算を行うため,並列計算機を使用できる環境が必要である.これまでの実績を考慮し,京都大学の大型計算機を使用する予定である.・現在投稿中のバーゼル地熱貯留層での間隙流体圧解析に関する論文の投稿料と別刷り代(400部)が必要となる.・現在準備中の2007年能登半島地震震源域の3D間隙流体圧分布の解析と東北地方太平洋沖地震の余震・誘発地震のメカニズムに関する研究に関して,論文投稿料と別刷り代が必要となる.可能であれば,FMTによる間隙流体圧時間空間発展解析法の開発に関する研究に関する論文もH24年度中に出したい.・研究成果をAGUなどの国際学会で発表するために,学会参加費と海外旅費が必要となる.・イタリア・INGVのChiaraluce博士との打ち合わせのため,海外旅費が必要となる.
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