研究課題/領域番号 |
23540496
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澁谷 拓郎 京都大学, 防災研究所, 教授 (70187417)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 南海トラフ巨大地震 / 紀伊半島 / 地震波速度構造 / フィリピン海プレート / スラブ起源流体 / レシーバ関数 / トモグラフィ |
研究概要 |
我々は,紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートとその周辺の構造を推定するため,フィリピン海スラブの傾斜方向の4測線とこれらにほぼ直交する2測線において,約5km間隔で地震計を配置する稠密リニアアレイ観測を行ってきた。観測された波形データを用いてレシーバ関数解析を行い,大陸モホ面,海洋地殻上面および海洋モホ面の3次元的形状を推定した。本研究のトモグラフィでは,これらの地震波速度不連続面を速度構造モデルに組み込んだ。定常観測点に加えて稠密リニアアレイを構成する臨時観測点の読み取り値も使用した。臨時観測点の稠密な配置により,これまでにない高い分解能が得られた。 トモグラフィの結果として推定された紀伊半島下の地震波速度の不均質構造は次のような特徴を示した。深さ40 kmでは海洋地殻は低速度であり,浅くなるにつれて,その低速度領域はマントルウェッジ,下部地殻へと広がっていくように見える。紀伊半島北西部では深さ16 kmを中心とする大きな低速度域が存在する。その上方の上部地殻内では地震活動が非常に活発である。また,紀伊半島の東部に比べ,西部の方が低速度の程度が強い。これらの特徴は,海洋地殻の含水鉱物が深部低周波イベント発生域付近で脱水分解して,その結果放出された「水」がマントルウェッジや下部地殻に移動して,低速度域を作り出していることを示している。紀伊半島の西部と東部に見られるスラブ周辺の構造の違いは,脱水分解で放出される「水」の量の違いで説明できるのではないかと考えられる。これらの知見はプレート境界面やマントルウェッジの状態を議論するうえで非常に重要であり,とても意義のある結果が得られたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が独自に展開している稠密リニアアレイ観測で得られた波形データのレシーバ関数解析を進め,大陸モホ面,海洋地殻上面および海洋モホ面の3次元的形状を推定し,それらを組み込んだトモグラフィ用の速度構造モデルを構築した。定常観測点に加えて稠密リニアアレイを構成する観測点の独自の読み取りデータを用いて,トモグラフィ解析を行い,研究実績で述べたような意義ある結果を得た。 読み取りデータを増やすことはできなかったが,既存のデータを用いてFMTOMOというトモグラフィのプログラム(Rawlinson et al., 2006)をチューニングし,紀伊半島下で推定された不連続面を組み込んだモデルと独自の読み取りデータに対して計算を遂行できるようにした。 本研究課題の見通しが付けられたという点において,初年度の達成度としては十分満足できる結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,地震波速度不連続面を組み込んだ速度構造モデルを用いたトモグラフィを遂行することを最重要課題と位置付けた。このため,読み取り値は既存のデータセットを使用した。繰越金は読み取りのための技術補佐員の人件費相当分である。 今後は,技術補佐員を1名雇って,地震波形からP波とS波の走時の読み取りを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の繰越金と次年度の研究費を合わせて地震波の読み取りを行う技術補佐員の人件費に充てる。就業時間数を増やし,今年度できなかった読み取りも行う。
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