研究課題/領域番号 |
23540496
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澁谷 拓郎 京都大学, 防災研究所, 教授 (70187417)
|
キーワード | 南海トラフ巨大地震 / 紀伊半島 / 地震波速度構造 / フィリピン海プレート / スラブ起源流体 / レシーバ関数 / トモグラフィ |
研究概要 |
本研究は、南海トラフ巨大地震の発生や強震動の予測を高度化するために、巨大地震の震源域であり、破壊開始点であり、強い地震波の経路である紀伊半島の3 次元地震波速度構造を正確に推定することを目的としている。 昨年度は、我々が独自に紀伊半島に展開しているリニアアレイ観測のデータを解析して、地震波速度不連続面の3 次元形状を推定し、それらを組み込んだ地震波走時トモグラフィを行い、紀伊半島下の3次元地震波速度構造を推定した。その結果、深さ40 kmでは海洋地殻は低速度であり、浅くなるにつれて、低速度領域はマントルウェッジから下部地殻へと広がっていき、紀伊半島北西部において深さ16 kmに大きな強い低速度域が存在することが明らかになった。この特徴は、海洋地殻の含水鉱物が深部低周波イベント発生域付近で脱水分解して、その結果放出された「水」がマントルウェッジや下部地殻に移動して、低速度域を作り出していることを示している。この知見はプレート境界面やマントルウェッジの状態を議論するうえで非常に重要であり、とても意義のある結果が得られたといえる。 今年度は、南海トラフ巨大地震の想定震源域の下限にあたる深さ40 km付近の解像度の改善を図るために、紀伊半島周辺で発生する深発地震の読み取りデータを活用することを試みた。深さ40 km付近の解像度をある程度改善することはできたが、深発地震の読み取りデータを加えるだけでは、この深さの解像度を満足できるほど改善できないことが分かった。深さ40 km付近の解像度を向上させるためには、解析領域を水平方向に広げ、この深さをほぼ水平に伝播する波線も取り込む必要があると思われる。 これと並行して、近地地震と深発地震のP波とS波の読み取りを行い、データを蓄積した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、本研究のトモグラフィ解析に用いているFMTOMOというプログラム(Rawlinson et al., 2006)をチューニングし、紀伊半島下で推定された不連続面を組み込んだ地震波速度構造モデルと紀伊半島周辺の近地地震の読み取りデータに対して計算を遂行できるようにした。 今年度は、FMTOMOの入力データを地震波速度構造モデルの領域外で発生する深発地震まで拡張した。深さ40 km付近の3次元地震波速度構造をある程度の分解能で推定することができるようになった。今後、解析領域を水平方向に広げ、この深さをほぼ水平に伝播する波線を増やせば、この深さの解像度を格段に改善することが期待できる。 地震波形の読み取り要員を確保し、2009年7月から約6か月分の読み取りを行った。これに加えて、深発地震については、過去にさかのぼって、再読取りを行った。
|
今後の研究の推進方策 |
1 地震波形の読み取りを継続して行う。 2 レシーバ関数解析を継続し、不連続面の3次元形状の更新を行う。 3 地震波走時トモグラフィにおいて、解析領域の拡大と深発地震の利用により、深さ40 km付近の解像度を改善する。また、新しく読み取ったデータと更新された不連続面を取り込んだ地震波速度構造モデルを用いた計算を行う。 4 推定された3次元地震波速度構造に基づいて、紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートの境界面付近の物性や状態について議論する。また、プレートから放出された流体の挙動と紀伊半島での地震活動について議論する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は本科研費の枠外で読み取り要員を確保できたので、繰越金が残せた。次年度は技術補佐員を1名雇って、地震波形からP波とS波の走時の読み取りを行う。今年度の繰越金と次年度の研究費を合わせて地震波の読み取りを行う技術補佐員の人件費に充てる。
|