西南日本の地殻変動と地震活動を理解するには,南海トラフより沈み込むフィリピン海プレートの境界面の固着状態と,内陸の中央構造線(MTL)のすべり様式の両方に注目する必要がある.MTL周辺の大局的な地殻構造は北傾斜を示し,北側の燧灘や高縄半島で特徴的な地震活動が認められることから,MTLの北側にGPS受信機3台と短周期・高感度地震計10台を配置して連続観測を実施した.取得データは関連する全国定常観測データと統合した解析処理を行った. 最終年度も,前2年間から継続した観測を行った.2011年3月東北地方太平洋沖地震の発生により,西南日本の地殻変動場がどのような影響を受けたかを調べるため,約570点のGPS観測点の地震前後それぞれ4年間,2.5年間の座標時系列を使用し,平均変位速度を求めた.地震後の速度場には,プレート沈み込みによる圧縮変形に加え,東北地方を向いた時計回りの有意な回転成分が重畳している.しかし,変位速度は座標系や基準点変位の影響を受けやすいため,これらに依存しないひずみ場に変換すると,西南日本では依然としてプレート沈み込みによる圧縮変形が圧倒的で,地震前後で有意な変化は認められなかった.これを根拠に,MTL付近の局所変形のモデル化にあたり,以前のデータも混在して使用した. MTL周辺の北傾斜構造と北側に連なる高角/右横ずれメカニズムの地震分布の両方を説明するものとして,以下の運動学的モデルを提唱した.北傾斜したMTL断層面の上盤内に,MTLと平行に複数の鉛直/右横ずれ断層が存在し,それぞれの断層面が固着してブロック間相対運動を分散して阻害することで,全体として変位速度場の遷移帯を形成している.これにより,1枚の傾斜/横ずれ断層が作り出す遷移帯とほぼ同等の結果を得た.
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