研究課題/領域番号 |
23540501
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
渡部 潤一 国立天文台, 天文情報センター, 教授 (50201190)
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研究分担者 |
柳澤 正久 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (60134665)
伊藤 孝士 国立天文台, 天文データセンター, 助教 (40280565)
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キーワード | 木星 / 天体衝突 / 流星 |
研究概要 |
2010年6月と8月に複数のアマチュア天文家によって観測・報告された木星面での発光現象は、大きさ数m~数十mの小天体の衝突による流星現象による発光と考えられている。この種の衝突発光は頻発している可能性が高い。日本の熟練したアマチュア天文家の協力を得て、木星面あるいは土星面を継続的に監視観測するネットワークを構築すると同時に、大型望遠鏡でさらに小規模な現象を捉え、衝突発光の頻度と規模を調査することが目的である。 研究開始2年目としては、初年度で完成させた観測システム(アマチュア天文家が用いるような典型的な小口径望遠鏡とビデオシステムを組み合わせた木星面発光監視観測システム)を活用し、継続観測を開始すると同時に、大型望遠鏡にメタンバンド吸収帯のフィルターを組み合わせ、木星面の輝度を落として発光のコントラストをあげる手法の検討をすすめ、実際に名寄市にある北海道大学の所有する口径1mの天体望遠鏡によって監視観測を実施した。この観測によって、手法の有効性は確認されたものの、実際の観測時間は悪天候によって、それほど長く確保できなかったため、小規模発光の検出には到らなかった。さらに、初年度で開発したデータの処理と発光現象の自動検出ソフトのさまざまな試行を行った。また主にアマチュア天文家による全国観測ネットワークを整備し、協力を得ることに成功した。最終的に十台前後の小口径望遠鏡の参加を得て、木星を絶え間なく集中して観測するキャンペーン期間を設け、総観測時間を伸ばしつつある。本研究とそのキャンペーンについては、平成24年8月に中国・北京で開催された国際天文学連合総会にて口頭発表を行ったが、その結果、中国からの参加者を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、木星面での大きさ数m~数十mの小天体の衝突による流星現象による発光について、日本の熟練したアマチュア天文家の協力を得つつ、木星面あるいは土星面を継続的に監視するネットワークを構築し、さらに大型望遠鏡で小規模な現象を捉え、衝突発光の頻度と規模を調査することにより、最終的には木星や土星を、いわば天然の小天体検出器として活用し、今まで不定性が大きかった巨大惑星領域での小天体について、数mサイズまでそのサイズ分布を決定することである。 初年度では、なんとかアマチュアネットワークを構築できたが、実際の本格的な監視観測キャンペーンを行うことはできなかった。2年目に当たる今年は、9月及び11月にそれぞれ観測期間を設け、アマチュア天文家、プロの研究者を交え、それぞれ1週間ほどの観測を行った。残念ながら、発光現象の検出は成らなかったものの、キャンペーン直後に海外において発光現象が捉えられた。本観測の意義については、平成24年8月に中国・北京で開催された国際天文学連合総会にて口頭発表を行った結果、中国からの参加者を得ることにも成功し、ネットワークの国際的な広がりに繋がった。 さらに、本観測においてははじめて1mクラスの天体望遠鏡として、名寄市にある北海道大学の望遠鏡を使うことができた。 また、さまざまな望遠鏡で得られた観測データを処理し、発光を自動検出するソフトウェアを用い、その長所短所を検討している。当初予定になかった、海外で開発されたソフトとの比較なども行いつつあり、順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
研究手法の5項目のうち、(1)木星面発光監視観測システムの構築、(2)大型望遠鏡によるメタンバンド吸収帯を利用した小規模発光の観測、(3)データの処理と発光現象の自動検出ソフトの開発・実用化、(4)主にアマチュア天文家による全国観測ネットワーク整備、については、ほぼ順調に進捗してきた。今後はこれらの観測を継続すると同時に(5)理論的解釈を中心に進めていきたい。 観測データがどの程度の質・量になるかにも依存するが、衝突発光の観測に関しては発光強度と小天体の大きさの関係について地球の流星発光の議論が応用できる。また、観測される衝突の規模と頻度から、小天体のサイズ分布についての理論的考察が欠かせない。これまで衛星などの表面のクレーターカウントにのみ依存してきたサイズ分布の考察は、本研究から根本的に見直される可能性がある。本研究では、それらの解釈に到ること、その導出の手法の確立を目指しており、最終年度である平成25年度は、結果が得られた段階で適宜、国内・国外の学会等で報告することを予定している。また、本研究3年間で残された課題や新しいテーマについて、後世に残すため論文などの出版物としてまとめていく予定であり、本研究の分担者以外の研究者も交えた広がりのある国際的な合同論文にまとめる方向でも調整中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度途中に予定していた観測要員の派遣について、打ち合わせをしていた要員が、急病となったために、派遣できずに補助金の一部を次年度に繰り越すこととなった。
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