研究課題/領域番号 |
23540502
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
山本 聡 独立行政法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 特別研究員 (20396857)
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キーワード | 地球観測 / 惑星起源・進化 / 惑星探査 |
研究概要 |
平成24年度は、地球観測衛星TERRA搭載のASTERによる分光データを使って、地球の衝突クレーターに対するマルチバンド画像における特定スペクトルパターンの検証を行った。その結果、植生が少なく水に覆われていない堆積岩層領域で形成された衝突クレーターの中央部分の丘(中央丘)やクレーターの縁において、反射スペクトル特性の異なる多重円環構造を示すものが見つかった。さらに、過去に行われた野外地質調査の記載論文や現地で撮影された写真等を基に比較検証を行った所、これらの円環構造は衝突クレーター形成過程において重力的緩和による中央丘形成時に、表層と異なるスペクトル特性をもつ深部物質が表層に露出したことで形成されたものである事が分かった。また主要な火山領域や岩塩ドームについてASTERによる解析を行ったが、同様の多重円環構造は見られなかった。このことから、マルチスペクトル画像における多重円環構造は、衝突クレーター固有の特徴の一つであり、衝突クレーター候補探しにおいて重要な指標になりうることが分かった。 次にこの多重円環構造に着目し、実際の衛星画像から自動抽出を行うための抽出プログラムの開発を行った。まず、月面上の衝突クレーターに対する検出手法(エッジ抽出やハフ変換等)を使って多重円環構造が検出可能であるか検証を行ったが、月と違って複雑な地質構造を持つ地球では、多重円環構造だけを抽出することが難しい事がわかった。そこで、多重円環構造の持つ「回転対称性」に着目し、画像を回転させたあとに相関をとるという新しい抽出プログラム(回転ピクセルスワッピング法)の開発をC++言語を用いて行った。最終的に、そのプログラムをASTERで観測される実際の衝突クレーターに適用したところ、実際の衝突クレーター構造の抽出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の解析により堆積岩層で形成される衝突クレーターの多くが、マルチスペクトル画像において多重円環構造を示す事が明らかとなった。また、その多重円環構造は衝突クレーター形成に起因するため、衝突クレーター固有の特徴である可能性が高いと考えられる。実際に他の地球上の地質構造(火山領域や岩塩ドーム)では同様の多重円環構造が見られなかった。このことから、クレーター捜索プログラムのアルゴリズムにおいて「多重円環構造」に着目すれば、比較的簡単にサーベイが行える可能性があるという結論に至った。さらに、多重円環構造を抽出するための新しいアルゴリズム開発において、画像の持つ「回転対称性」に注目するという、従来には無い新しくかつシンプルな手法(回転ピクセルスワッピング法)の開発に成功した。また、ASTER画像を用いて実際の衝突クレーター画像にこの回転ピクセルスワッピング法を適用した所、衝突構造だけを抽出することに成功した。この手法は、従来のハフ変換などと比べても設定する変数が少なく、かつ計算時間も少なくて済むことから、多数の衛星画像を使った全球捜索を行うことが可能と考えられる。 これらのことから、25年度に予定されていたアルゴリズム開発およびその最適化が、すでに終了している段階にあると考えられる。以上のことから、当初の計画以上に進展しているという判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に開発を行った回転ピクセルスワッピング法を様々な場所で取得されたASTERデータに適用し、衝突クレーター探しを行う(特に古い大陸、砂漠地帯等を主要ターゲットとする)。プログラムによって検知されたものについては、個別に詳細解析を行い、それらの大きさや形状、またその地域の形成年代といった地質的情報、特定スペクトル特性の記載、火山性クレーターの可能性の検証を行う。なお、これらのサーベイで検知されたものはあくまでも「衝突クレーター候補」にすぎず、実際に天体衝突クレーターとして認識されるためには、実地調査による検証(衝撃変性岩石の有無など)が必要である。この場合、他分野の研究者、特に地質調査の専門家にデータを広く提供することが重要となる。そこで候補地形が見つけられた場合は、「衝突クレーター候補リスト」として論文発表等だけでなく、ホームページ等によるデータ公開を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
地球の場合、地域によって様々な地質活動があり、また気候の違いによる植生の影響や侵食風化作用の影響の違いがあると考えられる。その為、地域ごとおよび画像内の場所ごとの地質的特徴について解釈を行う場合、ASTER画像だけでなく、現地で撮像された写真や地質調査に基づいた文献資料等による地域的特徴に基づいた解釈が欠かせない。そこで、次年度の研究費の使用計画としては、衝突クレーターや火山などについての地表面での写真や航空機の画像が記載されている資料、地質調査に基づいた地図などの資料の購入を行う予定である。 また、ASTERは非常に高い空間分解能で取得された衛星画像であることから、個別に解析した画像を効率良く保存・管理するためには、大容量のストレージおよびそのバックアップ機能が重要である。そこで、RAID機能を搭載した大容量ストレージの購入も予定している。それにともない、これらのストレージに保存する場合に必要となる画像処理機能を搭載した解析ソフトの購入も予定している。
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