研究課題
本研究計画提案のきっかけともなった東南海地震域で発生した超低周波地震活動の海底地震観測研究の結果をまとめ、Nature Geoscienceにて発表した(2012年5月7日付け)。この結果は、従来、非地震発生域と考えられていた沈み込み帯のごく浅部のトラフ軸近傍においても歪みが蓄積され得ることを示すものであった。また、この海溝軸近傍で起きるモーメントマグニチュードから推定されるよりも大きい津波を伴う「津波地震」の発生メカニズムがこの超低周波地震のそれと同様であることを示唆するものでもあった。2011年3月11日に発生した東北沖地震は、その破壊域は海溝軸沿いに500kmにも及んだが、その一部は津波地震であったと考えられている。私たちは、2010年8月から2011年8月までの1年間、日本海溝アウターライズに於いて、広帯域地震計と微差圧計を用いた観測網を展開しており、東北沖地震前後の地震活動の全貌を捉える事に成功した。この記録には、東北沖地震の前震とされる3月9日のM7クラスの地震も含まれており、前震から本震に至る過程において、上述の東南海域で見られたように海溝軸近傍での地震活動が本震を引き起こす重要なエビデンスであると理解している。現在、この記録を解析中であり、来年2013年度には、論文にまとめる予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
本計画の目的であった東南海域に於ける超低周波地震活動について解析を終えたところで、2011年3月の東北沖地震が発生したが、この地震活動は東南海域における超低周波地震活動と同様に、海溝軸近傍における地震活動であった。両者は全く異なる地震過程であるが、海溝軸近傍における歪み解放過程という共通項を持つイベントであると理解している。本研究計画に先行した東南海域に於ける広帯域地震計を用いた海底観測と同様の観測を東北沖地震時にも行っていたため、海溝軸付近における歪みの蓄積ならびに解放という一連のプロセスに資する研究へと本課題はスムーズに移行しており、当初の計画以上の成果が現れつつある。
上述してきたように、2011年3月の東北沖地震時にも、広帯域海底地震計を用いた海底観測を行っており、データ解析を進めているところである。これらは、本研究課題である東南海域における超低周波地震活動観測研究と同様、東北沖地震についても、海溝軸付近における歪みの蓄積ならびに解放という一連のプロセスに資するデータであると考え、2011年3月9日のM7クラスの前震から3月11日のM9の本震に至る過程について理解を深めていきたい。それには、私たちの1年間の機動的な観測データのみならず、1997年から3月11日まで記録し続けた釜石沖ケーブル式地震計ならびに圧力計の長期連続データ解析も同時に進めていくものとする。
本課題で計画していた広帯域海底地震観測はほぼ完了し、全てのデータを回収したところである。次年度は、解析結果をまとめていき、内外での学会発表を考えている。研究費はその旅費に使う計画である。
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