研究課題/領域番号 |
23540509
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 潔 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (20345060)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋物理学 / 海洋科学 / 大陸棚斜面 |
研究概要 |
斜面重力流と傾圧不安定渦を再現するための海洋循環モデルと、それによって得られる流動場に標識粒子を投入して追跡するための標識粒子追跡モデルの開発に従事した。海洋循環モデルは非静水圧モデル(静水圧近似をしないモデル)であり、斜面重力流に伴う海水沈降という、鉛直方向の運動が大事な現象を再現するために不可欠なモデルである。また、非静水圧過程をモデルで正しく再現することは、斜面重力流が大陸棚斜面を沈降する際に生じる周囲の海水のエントレインメント・混合過程を正しく評価するためにも不可欠なものである。さらに、海底境界層を再現できるような高解像度化も行い、それに伴う大規模計算が実施可能となるようなソースコードの改変作業も行った。一方、標識粒子追跡モデルについても、開発中の非静水圧モデルが採用している格子系(重力流の再現に適しているArakawa-C 格子)に対応するように、ソースコードの変更作業を行った。現在、これらの改変モデルの調整・検証を実施中であり、概ね良好な結果が得られているが、ケース計算がよりスムースに実施出来るような改善を加えている最中である。さらに、斜面重力流の一部もしくは全部を構成する大陸棚斜面上の海底境界流の構造について、実際の海洋での実態とそれが周囲海水のエントレインメント及び混合過程に果たす役割を正確且つ詳細に評価して数値モデルの結果を検証するために、数値研究と連携して現場海洋で海底境界層の観測を実施した。その結果、東日本太平洋側の大陸棚斜面上においても厚さ10~20mの海底境界層が存在することが明らかになり、現在そのデータと数値モデル結果の比較検証も行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度、研究代表者は職位の変更(助教から准教授への昇進)と、それに伴う所属講座の変更が有った(平成23年9月1日)。そのため、そうした変更に伴う諸手続き等が多く発生したため、研究の進行がやや停滞した時期もあったが、一方で連携して実施した海洋観測では東日本太平洋側の大陸棚斜面上において厚さ10~20mの海底境界層が存在することを発見した。この観測データを数値モデルの比較検証に用いることは本研究を大きく発展させるポテンシャルを持ち、この点では当初の想定以上の成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きモデルの開発・改良を進め、流速場のシミュレーションと標識粒子追跡を実施する。シミュレーションでは、異なる強さ・規模・分布を持つ斜面重力流と傾圧不安定渦を再現して、それぞれにおいて標識粒子を数~数10m 間隔で初期配置してその移動経路を追跡する。さらに、実験結果の解析にも着手し、重力流が沈降する際に、斜面上のどの様な位置(陸棚外縁付近、斜面中ほど、麓等)においてどれだけの量の海水が沈降流中にエントレインされるのか、また、エントレインされた海水が沈降流の起源水(高密度陸棚水)と均質に混合するまでにどれ位の時間を要し、その間どのような経路(流跡線)を辿るのか、そして最終的にどのような海水組成を持つ底層水がどれだけの量形成されるのか、を調べる。また、連携して実施している大陸棚斜面上における海底境界層の観測データを、数値モデルの比較検証に用いることで研究のさらなる充実を図る。そして、最終的にはそれらの解析結果の類型化を図り、現在一般に広く使用されているOGCM(海洋大循環モデル)等における斜面重力流のパラメタリゼーションに関して、現状における問題点を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に購入した計算機に装着されていたハードディスクの容量は、計算機性能の日々の進歩により、年度当初に予想していた容量よりも大きいものを購入することが出来た。そのため、ハードディスクの大規模な増設やそれに伴う周辺機器の整備を平成24年度に実施することとし、「次年度使用額」が発生した。平成24年度以降、解析するデータ量は大きく増加する予定であるので、現状のハードディスク容量が不足するときに、計算機性能の日々の進歩を考慮しながらその時点で最も費用対効果の大きいハードディスクや無停電源装置などの周辺機器を購入する予定である。また、大量に増大するデータを速やかに解析するために、解析用のミドルクラスサーバやソフトウェアについても購入する予定である。また、国内外の斜面重力流の研究者とも密に情報交換するための出張を計画している。
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