研究課題/領域番号 |
23540516
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中村 啓彦 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (50284914)
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研究分担者 |
仁科 文子 鹿児島大学, 水産学部, 助教 (80311885)
山城 徹 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (20158174)
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キーワード | 国際情報交換 / 韓国 / アメリカ合衆国 / 海洋物理学 / 沖縄トラフ / ケラマギャップ / 北太平洋中層水 / hydraulic control |
研究概要 |
本研究は、黒潮擾乱の組織化とケラマギャップ通過流という2つの強制力に対する沖縄トラフ中深層の海水循環応答の理論を構築することを目的する。H24年6月に、かごしま丸を利用してケラマギャップ周辺の詳細な水質観測と直接乱流観測を行う計画であった。しかし、観測期間中、台風4号と5号が立て続けに東シナ海上を通過したため、ほぼ全日程を台風避難に割かれ当初計画した全観測が実行できなかった。これについては、H25年度の再観測での成果が期待される。しかし、今年度は、これまでの取得データと歴史的観測データの解析から、沖縄トラフ中深層の海水循環像を構築する上で要となる研究結果が得られたので以下に記す。 東シナ海周辺の中層水の詳細な移流経路と変質過程を明らかにするために、歴史的観測データを用いて水温・塩分の高空間解像度データセットを作成し解析した。その結果、1)北太平洋中層水と南シナ海中層水が台湾沖で水平多層貫入により効率的に水平混合し新しい中層水が形成され、2)台湾・与那国島間とケラマギャップから沖縄トラフに流入したあと、3)沖縄トラフ内では鉛直混合により高塩分化することが明らかになった。一方、沖縄トラフ深層の海水循環と水塊形成に対しては、ケラマギャップの底層通過流の役割が明確になった。つまり、1)琉球海流系の分岐に由来するギャップ通過流は、ギャップの海底でhydraulic controlされてギャップのシル深度より深い沖縄トラフ南部の深層へ潜り込むこと、2)深層へ潜り込んだ海水は、活発な鉛直混合によって浮力を得て湧昇すること、3)この鉛直混合の渦拡散係数をボックスモデルで見積もったところ、外洋の深海に比べ10倍程度大きいことが分かった。 この2つの結果は、沖縄トラフは北太平洋中層水が湧昇する海域として北太平洋の南北循環に大きな影響を及ぼすことを示唆しており、大きな成果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書には、研究計画として(1) 沖縄トラフ中深層の海洋観測と歴史的観測データの解析、(2) 沖縄トラフの中深層循環の数値実験と理論の構築、(3) 次期観測計画の立案と国際共同観測体制の組織化を行なうことを掲げた。このうち、H24年度は、(1)と(2)について進める計画を立てていた。順次、目的の達成度を検証する。 (1):H24年の「かごしま丸」航海は、6月17~24日の観測期間中、東シナ海上を通過した台風4号(19日頃)と5号(22日頃)の影響を受け、当初計画した全観測が実行できず研究成果は得られなかった。これについては、H25年度6月に代替観測を行う計画である。一方、上記「研究成果」で述べたとおり、歴史的観測データの解析からは、沖縄トラフは北太平洋の南北循環にまで影響を及ぼすことを示唆するような大きな成果が得られた。これらの成果は、H24年9月に開催された2012年度日本海洋学会秋季大会、H24年12月に米国で開催されたAGU 2013 Fall Meeting、H25年3月に開催された2013年度日本海洋学会春季大会で発表された。 (2):海洋モデル(Princeton Ocean Model)を用いて沖縄トラフの3次元循環に関する数値実験をはじめた。実験では、鉛直成層、ケラマギャップの水深、沖縄トラフ内の鉛直拡散係数を変化させたとき、ケラマギャップ底層から沖縄トラフ深層へ流入する海水量がどのように変化するかを調べる感度実験を行った。現時点では、まとまった成果が得られていないので、H25年度も引き続き実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
H24年6月のかごしま丸観測は、台風の影響により当初計画した全観測が実行できなかった。したがって、この埋め合わせをH25年6月のかごしま丸航海で行わなければならない事態になった。そのための観測経費を確保するため、H24年度の研究費を約53万円節約してH25年度へ繰り越した。H25年度は、当初予定の70万円と合わせて約123万円の予算で、以下に掲げる3年目の計画を遂行する。 (1)海洋観測(中村、仁科、Park、東京大学/日比谷研究室):H25年6月の「かごしま丸」航海で、ケラマギャップ周辺および沖縄トラフ南部の中深層で、CTDによる水温・塩分観測に加え溶存酸素測定を行う。さらに、南部沖縄トラフの中深層で起る活発な乱流混合を測定するため、東大日比谷研究室と共同で深海乱流計による乱流測定を行う。 (2)中深層循環の数値実験と理論の構築 (中村、山城):これまでの観測データ解析と歴史的データ解析から、沖縄トラフの3次元循環像が描けてきた。観測から描いた循環像とその形成メカニズムを数値実験で検証する。H24年度にはじめた、沖縄トラフ中深層の鉛直拡散係数に対するケラマギャップ底層通過流量の感度実験を成功させ、ケラマギャップ通過流と黒潮擾乱の組織化に対する沖縄トラフ中深層循環の応答に関する理論を完成させる。 (3)次期観測計画の立案と国際観測体制の組織化(中村、Park、仁科、山城):4月23~25日に中国杭州で開催されるThe 17th Pacific-Asian Marginal Seas (PAMS) Meetingに中村が参加し、これまでの成果を発表するとともに、各国研究者と沖縄トラフの中深層循環に焦点を当てた次期観測計画の立案と国際共同観測の組織化について議論する。さらに、海外共同研究者のPark博士を6月のかごしま丸航海に招聘し、次期観測計画について韓国との共同研究を議論する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は約123万円を使用する。その内訳は、以下のとおりである。 1)6月の「かごしま丸」航海の観測経費として合計90万円:東大日比谷研究室との深海乱流の共同観測費用として50万円(東京-鹿児島間の機材輸送費20万円、3人分の観測参加旅費30万円)、Park博士のかごしま丸への招聘旅費として20万円、流速計設置経費として10万円、観測雑費として10万円。 2)研究成果を公表するための経費として合計20万円 3)研究促進の便宜を図るための謝金や消耗品購入費として13万円
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