本年度は、2012年5月6日につくば市に甚大な被害をもたらした竜巻について、気象研究所に設置されている二重偏波レーダーや水平解像度50mの数値シミュレーション結果を用いて、ストームの構造と竜巻の発生機構を中心に解析した。 二重偏波レーダーにより、tornado cycloneとよばれる直径1km程度の竜巻よりもやや大きい渦の特徴について、時間・空間的な構造の変化を調べた。その結果、渦はフック状の形状をしたエコーの先端部において竜巻発生の約10分前に地表付近からストーム中層にかけてほぼ同時に形成されていたことが明らかになった。竜巻発生前までは渦度一定のまま直径が増大していたが、竜巻発生後は直径が縮小するとともに渦度が増大し、移動経路は竜巻の被害分布と一致していた。 さらに、0.8秒間隔で出力した詳細なシミュレーション結果を用いて、竜巻の発生機構について調査した。その結果、上空のメソサイクロンが環境場の水平渦を起源としているのに対し、竜巻の渦はストーム自身が作り出していることが明らかになった。渦は主としてフック状の降水物質の分布の先端付近において傾圧的につくられており、摩擦の効果も寄与していることが定量的に確かめられた。フックの先端で傾圧的に作られる渦については、雨滴の蒸発や霰/雹の融解による冷却の効果が効いており、降水物質の荷重の効果は小さいことが示された。また、感度実験から、雨滴の蒸発の効果は渦の生成には寄与するが、地表付近を冷やし過ぎることにより竜巻発生にとって負の効果も持ち合わせていることが示された。霰/雹の融解は、雨滴の蒸発ほど上空の冷却量は大きくないが、地表付近を過度に冷やさないため、竜巻の発生に最も効率的に寄与していることが明らかになった。
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