研究課題/領域番号 |
23540519
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
長谷川 拓也 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 研究員 (40466256)
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研究分担者 |
美山 透 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 研究員 (80358770)
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キーワード | エルニーニョ / 大気海洋相互作用 / 沿岸湧昇 |
研究概要 |
当該年度に実施した研究成果について、以下に記載する。 (1)SINTEX-F2の150年実験結果解析:パプアニューギニア(PNG)沖の沿岸湧昇発生後に発生するエルニーニョ( 「湧昇先行型エルニーニョ」)の合成図解析を行い、観測と類似する海面水温や海上風がエルニーニョ発生前に見られることを確認した。一方、沿岸湧昇を伴わないエルニーニョに関しても解析を行い、沿岸湧昇先行型との比較を行った。その結果、沿岸湧昇を伴わないエルニーニョに関しては、沿岸湧昇先行型と異なり、正の水温偏差が東部赤道太平洋から西向きに伝播する傾向を示すものが複数存在することが明らかになった。 (2)PNG沿岸湧昇海面水温パターンやPNG高山山脈に着目した感度実験:PNG沿岸湧昇時に観測された海面水温パターンを境界条件として、大気領域 モデル(iRAM)を用いた感度実験を行った。モデルを駆動するための水温データ等を改善し、アンサンブル実験を行った結果、沿岸湧昇時に見られる水温パターンがエルニーニョ発生に好ましい西風偏差の強化に寄与する点を確認することができた。また、高山山脈を除去する実験も行い、高山山脈がPNG沿岸域の降水変動に大きな影響を与える点や、PNG沖合の大気循環にも影響する点を指摘した。 (3)領域結合モデル(iROAM)の開発:東部赤道太平洋ですでに実績がある大気海洋結合領域モデル(iROAM)を、ハワイ大学の共同研 究者の協力の下、前年度に引き続き開発を行い、本実験に向けた結合スキームの改善を行った。 (4)成果発表:国内外の学会において口頭およびポスター形式によって成果を発表した。また、一般市民にも理解が容易になるような研究紹介ホームページの作成を行い、公開を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実施項目を大きく分けると、(1)SINTEX-F2の150年実験結果解析、(2)PNG沿岸湧昇海面水温パターンおよびPNG高山山脈に着目した感度実 験、(3)領域結合モデル(iROAM)の開発継続の3項目に分割できる。上述したように、各項目において当初の計画に沿った活動を行うこと ができ、本年度の目的をほぼ達成することができた。 各項目の進捗を以下に述べる。 (1)においては、湧昇先行型エルニーニョ合成図解析を行い特徴を整理するとともに、湧昇を伴わないエルニーニョの時間発展との比較を行った。また、沿岸湧昇が発生したにもかかわらずエルニーニョが発生しなかったケースが存在した場合についても比較を行った。2)においては、沿岸湧昇時に現れる海面水温パターンが大気場に与える影響の評価や、PNG高山山脈が大気場に与える影響の評価をiRAMを用いたアンサンブル感度実験によって行った。(1)と(2)に関して 、得られた結果を国内外の学会において発表を行った(国内会議3件、国際会議4件)。また、(3)については、前年度に引き続きハワイ大学の共同研究者との打ち合わせを行い、iROAMの西太平洋版の開発を継続した。くわえて、得られた成果の一般向けの公開においても計画に沿って研究紹介ホームページを作成し、本研究の意義や得られた成果の解説などを公開した。 以上により、当初目的をほぼ達成することができたと自己点検によって評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の項目について研究を推進させる。 (1)PNG沿岸湧昇とエルニーニョの関係の解明:SINTEX-F2実験結果を用いて、湧昇潜行型エルニーニョやその他のエルニーニョに見られる相違点についてさらに詳しく調べる。具体的には、今年度に明らかになった海面水温偏差の赤道域における伝播特性の違いに着目した解析を行い、物理プロセスの違いをより詳細に把握する。そのために、ラグ合成図解析などを用いて、水温、海面高度、海上風、海面気圧などの赤道沿いの伝播特性の違いについて焦点を当てた解析を行い、各タイプの違いを生ずるプロセスの理解を深める。 (2) 海面水温および急峻地形効果の検証:iRAMを用いて、PNG沿岸湧昇時に現れる海面水温パターンやPNG上の急峻山岳地形を除去・変化させて駆動する感度実験を行い、地形の変化による沿岸湧昇、西風強化、暖水プール東進の振る舞いの変化を 調べる。今年度に行ったアンサンブル数をさらに増加させるなどして、統計学的な有意性をより高めることを目指す。また、iROAMの開発完了後に感度実験を行い、大気海洋結合システムにおける応答の違いを確認して、沿岸湧昇や山岳地形が大気海洋結合システムに与える影響について調べる。 (3)誌面発表に向けた作業:以上に述べた研究を推進し、得られた結果を国内外の学会で発表するとともに、誌面発表に向けた論文作成を行い、国際誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な研究費の使途として以下を予定している。 次年度は主に旅費に関して研究費を使用する予定である。 (1)成果の発表や研究打ち合わせのために、国内外の学会参加や、海外共同研究者が所属するハワイ大学などへの出張を行う。 (2)物品に関しては、メモリースティック等の購入を行う。 (3)その他の支出に関しては、学会参加費や誌面発表のための論文出版代及び別刷り代を計上する。
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