研究課題/領域番号 |
23540523
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大塚 雄一 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 准教授 (40314025)
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研究分担者 |
山本 衛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (20210560)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 電離圏 / 熱圏 / 中間圏 / 国際研究者交流 / イギリス / インド / 乱流 / 春秋非対称 |
研究概要 |
1. 1986 年以降、MU レーダーにより電離圏標準観測として電子密度、電子・イオン温度、プラズマドリフト速度の観測が毎月3 日間(1996 年以降は、4 日連続観測を年間9 回)行われてきたが、これまで2003 年以降のデータは殆ど解析されていなかった。本研究では、2003 年以降のデータを生データから解析し、電子密度、電子・イオン温度、プラズマドリフト速度を導出した。2.国土地理院が所有するGPS観測網データを利用して電離圏全電子数を算出し、1998年から2007年までに得られた全電子数の季節・地方時変化を統計的に調べた。その結果、全電子数は、春・秋に極大をもつ半年周期変化を示すこと、春・秋に非対称性があり、春の方が秋よりも全電子数が大きいことが明らかになった。3.名古屋大学太陽地球環境研究所は、滋賀県信楽の京都大学MUレーダー・サイトにおいて1997年にファブリ・ペロー干渉計(FPI)を設置し、連続観測を行っている。本研究では、掃天型の観測を行った2000年10月以降にFPIで得られた熱圏中性大気風速データを統計解析した。その結果、夜間において、南北風は真夜中付近に最も南向きが大きくなり、東西風は日没時において東向きで時間とともに西向きに転じる日変化を示すことが明らかになった。また、南北風は顕著な春・秋非対称性を示し、春の方が秋よりも夜間を通して南向きに大きいことが明らかになった。南向き中性風は、電離圏プラズマを消滅率が小さい高高度へ磁力線に沿って持ち上げるため、電子密度の増大をもたらす。従って、全電子数の春・秋非対称性の原因は、中性大気風速の春・秋非対称性であると考えられる。 本研究の成果は、熱圏の中性大気風速が電離大気に及ぼす影響が大きいことを示しており、中性大気・電離大気間の相互作用の研究に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、MUレーダーで観測された電離圏物理量を統計解析するが、MUレーダーは、電離圏を観測するための非干渉散乱(Incoherent Scatter; IS)レーダーとしては周波数が低いために受信電波の信号対雑音比(SN 比)が低く、外来雑音の影響を受けやすく、データを十分に吟味しながらデータ処理を行う必要がある。特に、2003年から2009年までの太陽活動極小期は、これまで以上に太陽活動度が静穏であったため、電離圏電子密度が低くデータのSN比が小さくなったため、データ解析に細心の注意を払う必要があり、時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
1. MU レーダー中間圏観測データの解析: 1986 年より定常的にMUレーダーを用いて中間圏乱流の観測が行われてきた。乱流の強さはレーダー・エコーのスペクトル幅から求めることができるので、1986 年から今までに得られた中間圏観測データを解析し、乱流の強さを表す乱流拡散係数を求め、春・秋非対称性の有無を統計的に明らかにする。2. 中性大気及び電離大気の春・秋非対称性の定量的理解: 地上のファブリ・ペロー干渉計や人工衛星による観測で得られた中性大気密度及び風速の統計解析データをシェフィールド大学プラズマ圏電離圏モデル(Sheffield University Plasmasphere and Ionosphere Model; SUPIM)に入力し、電離圏観測データを定量的に再現できるか確かめる。SUPIM は、複数の電離圏イオン及び電子の運動方程式、連続の式、エネルギー方程式などを磁力線に沿って解く数値モデルの一種で、シェフィールド大学のNanan Balan 博士を研究協力者として実施する。さらに、SUPIM に入力する中性大気密度や組成、風速を変えて計算を行い、中性大気のどのパラメーターが電離圏の春・秋非対称性の主原因であるかをつきとめる。3. 中間圏乱流拡散係数の熱圏・電離圏への影響の調査: MU レーダー中間圏観測データを解析することにより、平成23 年度に得られた中間圏乱流拡散係数をTIE-GCM に入力し、中間圏乱流拡散係数の春・秋非対称性が熱圏・電離圏の春・秋非対称性にどの程度の影響を与えているかを定量的に調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
・英国シェフィールド大学のBalan 博士を招聘し、名古屋大学太陽地球環境研究所の客員研究員として3 ヶ月間共同研究を行う(謝金を使用)。雇用費は、名古屋大学の規定に従う。熱圏の中性大気観測データと電離圏観測データとを比較するためには、電離圏の数値モデルを用いた定量的な研究が必要不可欠であり、本研究では電離大気について自己無撞着に解くことのできるシェフィールド大学プラズマ圏電離圏モデル(SUPIM)を用いる。Balan 博士は、これまでにMU レーダーをはじめとする観測データとSUPIM による計算結果との比較を行い、多くの研究成果をあげており、本研究ではBalan 博士の研究協力が必要不可欠である。・MU レーダーは、京都大学生存圏研究所で運用されており、観測データも同研究所に蓄積されている。データ解析の手法、データの品質を議論するため、大塚(研究代表者)が生存圏研究所を訪問し、研究打合せを行う(国内旅費を使用)。・解析したデータを保存するため、USB 接続の記憶装置(容量1Tbyte)を使用する(消耗品費を使用)。・ 国内外の学会)や研究集会で、研究成果を発表するとともに研究遂行に必要な資料収集を行う(国内外旅費を使用)。
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