研究課題/領域番号 |
23540523
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大塚 雄一 名古屋大学, 太陽地球環境研究所, 准教授 (40314025)
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研究分担者 |
山本 衛 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (20210560)
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キーワード | 電離圏 / 熱圏 / 中間圏 / プラズマ密度 / 乱流 / レーダー / 国際情報交換 |
研究概要 |
中緯度及び赤道域電離圏は、熱圏中性大気の組成と運動に大きく影響されている。本研究では、電離圏・熱圏の年変化、特に春と秋との違いの原因を解明することにより、電離圏・熱圏結合過程、つまり中性大気・電離大気結合過程の一端を明らかにすることを目的とする。また、近年、下層に位置する中間圏の乱流が熱圏・電離圏に与える影響が大きいことがシミュレーションにより示されており、中間圏乱流が電離圏・熱圏の春・秋非対称性の原因になっている可能性がある。しかし、未だ充分な観測データが得られていない。そこで、本研究では、1986年から現在まで中間圏及び電離圏の観測を行っている、大型大気レーダーであるMUレーダーのデータを解析している。特に、MUレーダーによって観測された中間圏エコーのスペクトル幅から、乱流拡散係数を求め、その季節変化を調べた。その結果、中間圏における乱流拡散係数は、夏季に大きいこと、春よりも秋に大きいことが明らかになった。Qianらによる全球モデルによる結果を考慮すると、夏季には中間圏乱流拡散係数が大きいため、高高度まで乱流による大気組成の混合が起こり、熱圏における酸素原子の割合が小さくなると考えられる。このため、電離圏における電離生成率が減小し、電離圏電子密度が小さくなる。よって、中間圏乱流の季節変化は、夏季において電離圏電子密度が冬季よりも小さくなる冬季異常とよばれる現象の原因となっていることが分かった。同様に、春・秋非対称についてQianらの結果に基づいて考察すると、中間圏乱流拡散係数は春よりも秋に大きいため、熱圏における酸素原子は春よりも秋に小さいと考えられる。この熱圏の組成からは、春よりも秋に電子密度が小さいと予想され、電離圏観測結果と一致する。しかし、熱圏大気の経験モデルであるMSISモデルとは一致しないことから、さらに数値モデルによる定量的な研究が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
レーダー観測データから、乱流拡散係数を求めるためには、ビーム・ブロードニングやシアー・ブロードニング、ドップラー速度の時間変化によるブロードニングの効果を取り除く必要があり、この手法の検討に予想以上に時間を費やした。 また、中性大気密度及び風速の観測データをシェフィールド大学プラズマ圏電離圏モデル(Sheffield University Plasmasphere and Ionosphere Model; SUPIM)に入力し、電離圏観測データを定量的に再現できるか確かめるため、SUPIMモデルに精通したNanan Balan 博士を名古屋大学太陽地球環境研究所に客員教授として招聘している。招聘期間が、平成26年3月から8月までとなったため、SUPIMを用いた研究を主に平成26年度に実施することとした。このため、当初計画ようりもやや遅れているが、当初の目的は達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた、中性大気密度及び風速の統計解析データをシェフィールド大学プラズマ圏電離圏モデル(SUPIM)に入力し、電離圏観測データを定量的に再現できるか確かめる。SUPIM は、複数の電離圏イオン及び電子の運動方程式、連続の式、エネルギー方程式などを磁力線に沿って解く数値モデルの一種で、シェフィールド大学のNanan Balan 博士を研究協力者として実施する。Balan博士は、平成26年3月から8月まで名古屋大学太陽地球環境研究所に客員教授として滞在されるため、この期間に研究を進める。 さらに、中間圏乱流拡散係数の熱圏・電離圏への影響を調べるため、MU レーダー中間圏観測データを解析することにより得られた中間圏乱流拡散係数を全球モデルであるTIE-GCM に入力し、中間圏乱流拡散係数の春・秋非対称性が熱圏・電離圏の春・秋非対称性にどの程度の影響を与えているかを定量的に調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
シェフィールド大学プラズマ圏電離圏モデル(SUPIM)とMUレーダー等の観測結果を比較するため、当初、本科研費により、英国シェフィールド大学のNanan Balan博士を名古屋大学太陽地球環境研究所に招聘する予定であった。しかし、Balan博士とは、多方面での共同研究が進んでおり、平成26年3月から8月まで同研究所の客員教授として滞在されることになった。このため、Balan博士の研究打合せ及び研究成果の発表のための旅費を平成26年度に使用することにした。これに伴い、Balan博士がデータ解析に使用する大容量ハードディスクも、平成26年度に購入することにした。 研究代表者である大塚、共同研究者であるBalan博士、大塚が指導する大学院生の研究打合せ及び研究成果の発表のための旅費として使用する。具体には、日本地球枠惑星科学連合大会(横浜、4月28日-5月2日)、MSTレーダー・ワークショップ(ブラジル、5月26-30日)、AOGS(札幌、7月28日-8月1日)、SGEPSS秋学会(信州、10月31日-11月3日)、MTI研究集会において成果発表するための旅費として使用する。また、データ解析及び保存のために、大容量ハードディスク(NAS)及びポータブル・ハードディスクを購入する。
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