中緯度及び赤道域電離圏は、熱圏中性大気の組成と運動に大きく影響されている。本研究では、電離圏・熱圏の年変化、特に春と秋との違いの原因を解明することにより、電離圏・熱圏結合過程、つまり中性大気・電離大気結合過程の一端を明らかにすることを目的とする。また、近年、下層に位置する中間圏の乱流が熱圏・電離圏に与える影響が大きいことが示されており、中間圏乱流が電離圏・熱圏の春・秋非対称性の原因になっている可能性がある。しかし、未だ充分な観測データが得られていない。そこで、本研究では、1986年から現在まで中間圏及び電離圏の観測を行っている、大型大気レーダーであるMUレーダーによって観測された中間圏エコーのスペクトル幅から、乱流拡散係数を求め、その季節変化を調べた。その結果、中間圏における乱流拡散係数は、夏季に大きいこと、春よりも秋に大きいことが明らかになった。Qianらによる全球モデルによる結果を考慮すると、中間圏乱流拡散係数は春よりも秋に大きいため、熱圏における酸素原子は春よりも秋に小さいと考えられる。この熱圏の組成からは、春よりも秋に電子密度が小さいと予想され、電離圏観測結果と一致する。しかし、熱圏大気の経験モデルであるMSISモデルとは一致しないことから、さらに数値モデルによる定量的な研究が必要であると考えられる。一方、赤道域においてプラズマバブルの発生頻度に春・秋非対称性が見られることが知られており、その原因として日没時における東西方向の熱圏風によるダイナモ電場や、南北方向の熱圏風による電場の抑制効果が考えられていたが、熱圏風の直接観測はこれまで行われていなかった。本研究では、タイのチェンマイに設置されたファブリ・ペロー干渉計で観測された熱圏風のデータを解析し、南北方向の熱圏風の春・秋非対称性が電離圏の春・秋非対称性の主な原因と考えられることを示した。
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