研究課題
平成24年度には、米国航空宇宙局(NASA)によるDaytime Dynamoロケット実験の2回目実施に向けた実験準備として、ロケット放出リチウム共鳴散乱光の絶対発光強度ならびに昼間条件下での背景光絶対強度の定量的調査を実施し、S/Nを推定した。これにより、平成25年度実施予定の同実験の2回目の実施に関して、目処を立てることができた。具体的には、平成25年1月29日に、米国バージニア州のNASA Wallops実験場において、観測ロケットを用いたTest Flightを実施し、S/N向上のため実観測において予定される航空機観測を同等の飛行経路条件にて実施した。搭載したリチウム放出装置は、米国製となったが、日本国内にてJAXA他の研究結果により得られた成果が反映される形で製作され、同ロケット上昇時の高度110 kmおよび120 kmにおいて2回のリチウム放出が成功裏に実施された。研究代表者は、米国側受入担当者のClemson大学Miguel Larsen教授とともにNASAの観測用航空機NASA-8に搭乗し、日本製のリチウム共鳴散乱光専用観測機器を用いて夕方条件下でのリチウム発光の定量的観測に成功した。観測においては飽和条件を探り、撮影パラメータを調整して飽和しない状況での発光強度データが取得された。国内においては背景光の撮影を実施するとともに、国立極地研究所の積分球装置を用いた較正実験を実施し、発光強度の定量に成功した。結果として、航空機を用いた場合に、上空での背景光とリチウム発光の比は観測可能なレベルであることが見出された。これらの結果は、平成25年度に実施予定の観測本番にて確認され、昼間条件下でのリチウム共鳴散乱光を用いた熱圏下部の中性大気風の観測が実現する見込みである。なお、Test Flight実験の渡航費は別予算で工面されたため、本費用は本番に残すこととした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は「ロケット放出リチウムを用いた昼間熱圏における中性大気風速の精密計測」をテーマとしているが、当初予定した実験は2回あったが、2011年7月に米国NASA Wallops実験場にて実施されたDaytime Dynamo実験では、1回目実験の実施後、リチウム放出装置の不具合等と推察される理由で観測不能となった影響から、一時的に同実験を中断し2回目の実験実施までに米国側・日本側ともに原因究明と実験方法を吟味する段階に移行した。平成24年度には、NASAが用意したTest Flight実験が実施可能となり、リチウム放出装置を搭載して、条件的に比較的容易な夕方条件下にて航空機および地上観測を実施した。結果として、航空機・地上とも発光観測に成功し、リチウム放出装置については実験実施の目処が立った。またリチウム発光強度の定量的観測が実施できたため、昼間条件下での実験実施に向けたデータがほぼ出揃った。平成25年度の第2回実験実施が実現可能なレベルで定量的情報が得られたため、搭載機器・発光観測ともに、おおむね順調な進展が得られていると言える。
平成25年度には、これまで得られた情報を基に、Daytime Dynamoキャンペーンの第2回実験が実施される予定である。昼間条件下での厳しい実験条件のため、NASAの観測用航空機を導入して最善を期すが、Test Flightに参加した研究代表者ならびに米国側受入担当者による航空機観測の経験も蓄積できており、成功裏の観測実施が期待される。平成24年度に得られた情報では、上空10 kmから太陽を背にした観測条件下ではリチウム共鳴散乱光の検出が可能であり、地上かつ太陽を背にできない条件下での検出は相当に厳しい数字となった。したがって航空機観測は必須であるが、その利用は米国側担当者の努力により実現する見通しである。予算的に彼らの助けを借りつつ、日本の独自技術からスタートした本国際共同実験が成功することで、2国間の宇宙実験の推進に寄与できると考えており、実験成功に向け入念な準備を行っているところである。平成25年度当初には、研究代表者らのチームとしては、日米共同での赤道直下(Kwajalein環礁)でのロケット実験にも参加しており、貴重なデータ取得に成功している。これは本研究課題を含めた、日米共同ロケット実験の推進による成果であり、本年度も共同実験の趣旨を理解しつつ、本研究を推進できる見込みである。
現在、研究費として残っている費用は、ほぼすべてDaytime Dynamoキャンペーンの第2回実験の渡航費用に使用予定である。研究費の残額状況から、1名の派遣が限界である。なお、米国側が決定する実験日程が、研究代表者が主たる教育業務のスケジュールを勘案して渡航不可能な日程に決定された場合には、やむを得ず、平成24年11月に研究代表者の研究室内にて助教として採用された教員1名を派遣見込みである。渡航旅費の他にも観測用消耗品等を購入する必要があるため、残余が生じることはないが、渡航旅費や消耗品に不足が生じた場合には、学内研究費より補う予定である。
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An introduction to space instrumentation
巻: 1 ページ: 000
http://www.kochi-tech.ac.jp/kut_J/event/wind-2/
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2012/0112_s520-26.shtml
http://sites.wff.nasa.gov/code840/pfaff.html