研究課題/領域番号 |
23540530
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
宮下 純夫 新潟大学, 自然科学系, 教授 (60200169)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋地殻 / オフィオライト / 海嶺 / オマーン / オフアクシス火成活動 / 海嶺セグメント |
研究概要 |
オマーンオフィオライト溶岩層に関する詳細な検討から,海嶺軸上での火成活動とオフアクシス火成活動が系統的に識別されることを明らかにした.また,溶岩層の海嶺軸方向に沿った岩相や組成の変化についての検討も着実に進行しつつある.溶岩層の垂直的な積み重なりが,海嶺軸からオフアクシスへの空間的変化の中で形成されることを明らかにしたことは,大きな意義があると考えている. 一方,オマーンオフィオライトのガブロ層中には大量のウエールライト~優黒質ガブロの貫入岩体がこれまで知られていたが,それらについての広域的変化などに関しては,全く研究がなされてこなかった.今回,南北80kmにわたる広範な地域でそうした後期貫入岩体を検討した結果,ガブロ層と類似したマグマから由来しているものと,ガブロ層とは著しく異なった島弧的マグマに由来する2つのタイプが識別された.前者は本研究目的に掲げたオフアクシス火成活動に由来するものとみなされるが,後者は,海嶺火成活動の完全な終焉ののちの,初期島弧形成時に活動したマグマから由来している. オフアクシス火成活動の深部相とみられるウエールライト~優黒質ガブロの貫入岩体は,場所により著しい岩相の変化を示し,特に海嶺セグメント末端部と見なされる2カ所付近のものは,大量の角閃石の出現や,全般的により分化した組成によって特徴づけられる.一方,海嶺セグメント中心部付近では,角閃石を殆ど含まず,組成ももっとも未分化なものが出現していることが明らかになってきた.すなわち,海嶺セグメント構造は,海嶺軸における海洋地殻形成をコントロールしているとともに,オフアクシス火成活動にも大きな影響を与えていることが明らかになってきた.このことは,海嶺セグメントの大きな不連続に沿って,海水が深部まで浸透している可能性を示しており,新たな研究課題が生じた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
溶岩層からの解析は順調に進行しており,精密な調査と地球化学的研究との結合により,軸上火成活動からオフアクシス火成活動への溶岩層の形成プロセスが明確になった.したがって,計画で掲げた研究目標は達成されており,その成果は国際誌へ投稿して受理されている. オマーンオフィオライトにおいては,溶岩層序が研究者によって異なり,大きな混乱が生じていたが,精密な地質学的・層序学的(火山地質学的)研究と地球化学的研究を融合することにより,その混乱を解決できる展望が明らかになってきた.この溶岩層に関する研究は,今後,オマーンオフィオライト研究や海洋地殻溶岩層の研究の重要なレファレンスになるものと思われる. 一方,地殻の深部に貫入しているいわゆるウエールライト貫入岩体については,オフアクシス火成活動,すなわち広義の海嶺火成活動によるという考えと,海洋底衝上断層の発生に伴う初期島弧火成活動によっているという2つの考えが提案されているが,最近は後者の考えを主張する研究者が多い現状にある.この間の研究により,ウエールライト~メラガブロ貫入岩体には,明確に岩石学的特徴が異なる2つのタイプが存在していること,一つは頻繁に出現する通常のものと,単斜輝石集積岩から主になり角閃石を大量に伴う島弧的性格を有しているものとに明瞭に区別されることが明らかになってきた. さらに,前者のものにはセグメント構造との関係で系統的な岩相・組成変化を示すことが明瞭になってきた.ウエールライト~メラガブロ貫入岩体がセグメント構造に支配されていることが明らかになったのは初めてであり,その成因についても重要な制約条件を与えるものである.この成果は現在国際誌へ投稿準備中である. 以上のことから,研究目的に沿った成果が当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
溶岩層に関しては,これまで主として海嶺火成活動に関連したV1ユニットを中心にしていたが,さらに初期島弧火成活動に相当するV2ユニットへの変遷と広域的な層序確立という方針で調査を広げて行く.V1ユットに関しては層序は明瞭になってきたので海嶺軸方向に沿った変化の検討に重きを置いて調査を進める.溶岩層に関する次の公表論文は,V2までを含めた溶岩層序全体を解明するものと,海嶺軸方向に沿った溶岩層の変化に注目した2本を準備する. ウエールライト~メラガブロ貫入岩体に関しては,基本的な岩石記載が終了しつつあるので,LA-ICP-MSなどを用いた精密な地球化学的研究に重点を移す.また,前年度の調査や研究によって生じた問題点を検討するために,さらに精密な調査・サンプリングを実施し,それらの岩石記載までを今年度は行う.これらに関する成果公表は,1)新たに発見された巨大ウエールライト岩体の記載とその成因,2)広域的なウエールライト~メラガブロ貫入岩体の変化の実体解明とその成因的意義を検討する2本の論文として投稿・受理されるように取り組む. 溶岩層におけるオフアクシス火成活動のマグマと,ウエールライト~メラガブロとの成因的関係は,共通して観察される単斜輝石や斜長石の微量成分組成分析から検討を開始する.また,ウエールライト~メラガブロとモホ遷移帯の岩石との比較検討や,それらの海嶺セグメント構造に沿った系統的な変化の実体とその岩石成因学的意義の解明を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
オマーンオフィオライト調査のための旅費,国内外での学会での成果発表のための旅費として合わせて90万円を予定している. 精密化学分析のためのガス代や薬品代として30万円を計上している. その他として,岩石運送費や論文投稿料,別刷り代として40万円を予定している. なお,今年度未使用金が50万円前後生じているが,その一つは年度末近くに購入されたパソコンの支払いが3月30日までに終了していないためであり,それを考慮すると,ほぼ30万円の残金となっている.既に受理が決定している論文だけで20万円近い費用が発生することが分かっており,残金として残したのはそのためである.次年度に計画を上回るペースで論文が受理・印刷されれば,その部分の経費については連携・協力研究者からの支払いを計画している.
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