研究課題
平成24年度には,岐阜福井県境の冠山地域,能郷白山地域,三重県多気郡大台町薗川流域および同県熊野市ツエノ峰地域において調査・研究を行った.冠山地域の二重山稜については,平成23年度に,3試料の放射性炭素同位体年代測定,鬼界アカホヤ火山灰の同定などを行ったが,平成24年度にはさらに多くのボーリング掘削を行い年代測定等を行った.その結果,凹地の発達過程に制限を与えることができた.能郷白山地域では,主として野外調査とGIS解析を行った.その結果,(1)地すべりの前兆現象と考えられる山体重力変形地形は,斜面の方位と地質構造に規制されて発達していること,(2)山体重力変形地形は,解析前線の直上の平坦な斜面上に集中して発達することが明らかとなった.本研究費および他の研究費により薗川流域で掘削されたボーリング試料を用い,放射性炭素同位体年代測定および走査型X線分析顕微鏡による元素マッピングを行った.その結果,本地域のせき止め湖は,25,000 cal BP頃形成され,1,000年間ほど存続したことが明らかになった.また,元素マッピングの結果,FeとMnの濃集する葉理が特徴的にみられることが明らかとなったが,その解釈については来年度の課題としたい.平成23年度に,ツエノ峰地域の二重山稜の間の凹地を埋める堆積物のボーリング掘削を行い,平成24年度にはこの試料の解析を行った.その結果,約8 mの凹地埋積堆積物に3層のテフラが含まれており,火山ガラスと角閃石の屈折率の解析から,上位から,姶良Tnテフラ(約28,000-30,000年前),九重第1テフラ(約50,000年前),鬼界葛原テフラ(約95,000年前)に対比されることが明らかになった.また,その下位にあるせき止め湖堆積物のパーカッションボーリングを行い堆積物を得た.平成25年度にはその解析を行いたい.
2: おおむね順調に進展している
平成23年9月上旬に紀伊半島を襲った台風12号の災害により,三重県・奈良県・和歌山県南部の山間地域の多くの林道が破壊され,ボーリング掘削に支障をきたしたが,平成24年度には遅れを取り戻すとともに,調査地域を岐阜福井県境地域にも広げ,成果をあげることができた.
平成23,24年度に予定していた業者に委託してのボーリング掘削は,平成23年度の災害などの影響もあり,十分に実施できなかった.その分,ハンドオーガーボーリングやパーカッションボーリングなど,自前のボーリング掘削を行い試料を確保してきた.それらの試料を用いた解析は,平成24年度になって順調に進んでいるので,今後もこの方針で研究を進めたい.研究対象を紀伊半島に限らず,中部地方にまで広げているのは当初の研究計画とは若干異なる.これは,平成23年度の紀伊半島災害のために,十分な研究を行うことができなかったことによる.しかし,研究対象地域が広がっても,当初の目的である,有史以前の地震・豪雨災害の歴史を明らかにし,将来予測を行うことは達成できると考えている.また,せき止め湖堆積物の研究を推進する中で,天然ダムを形成した地すべり移動体の上部には二重山稜,山向き小崖などの山体重力変形地形が発達することがわかってきた.これらの変形地形の発達過程はほとんどわかっていないが,凹地埋積堆積物を検討することにより,発達史を明らかにすることができる場合がある.平成24年度以降,これらの地形や堆積物も研究対象としているが,その方針は今後も継続したい.
平成23,24年度には,業者に委託してのボーリング掘削に代えてハンドオーガーボーリングやパーカッションボーリングなど自前のボーリング掘削を行った.その分,平成25年度に研究費を繰り越すことができたので,平成25年度にも当初予定していなかったボーリング掘削等を予算の許す範囲で行いたい.また,平成25年度は本研究費の最終年度であるので,成果のとりまとめを行うとともに,成果の発表も積極的に行いたい.
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日本応用地質学会平成24年度研究発表会講演論文集
巻: 巻号なし ページ: 13-14
巻: 巻号なし ページ: 149-150
地盤工学会誌
巻: 60 ページ: 59-62