研究課題/領域番号 |
23540533
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
酒井 哲弥 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (90303809)
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キーワード | 国際拘留者研究 / ネパール / 地すべり / 巨大地震 / 三角州平野 / 津波 |
研究概要 |
今年度もカトマンズ盆地における調査を重点的に行った.今年度の調査では,同じ地すべりイベントが他の地点で発生していないかどうかを確認するため,調査範囲をより東方に拡大した.その結果として,いくつかの重要な発見があった.(1) これまでに実施した調査で確認された地すべり堆積物と同じタイミングで起きたと思われる地すべりの痕跡が確認された.これにより,地すべりはかなり広範囲に発生していたことが確認された.(2) 昨年までの調査で,平野の堆積物が地すべりを起こすためには,堆積物の液状化が不可欠であることがわかっている.今年度の調査を行った地点においては,地すべり堆積物の直下に厚さ3m程度の液状化の痕跡を残す地層が見つかると共に,液状化した地層が最大で水平方向に50cm程度の幅で振動した痕跡が見つかった.これは地震の震動によるものと判断される.その震動の痕跡は,震度7クラスの巨大地震が地すべりの引き金となった可能性を示している.また,その地点の地すべり堆積物の直上には巨大な泥ブロックを含む津波堆積物と判断される地層も見つかった.これまでの調査を通じて,地震の発生から地すべりの発生,地すべり後にかけての一連の自然現象と地すべりの運動プロセスをおよそ捉えることができた. 一方,実験的研究では,地すべりの発生にまだ成功していない.その原因として,いくつかの可能性がある.その1つが,地すべりを起こす平野の面と湖水面の高さに違いがあった可能性である.実験は,平野の面と湖水面がほぼ同じ高さにある状態で実施した.これまでに検出されている東海層群の結果においても,地すべり発生時に湖の水位が地盤の傾動に伴って低下したことがわかっている.今後は実験条件を変えての実験を実施する必要があると同時に,カトマンズにおいては,地すべり発生時の湖水準がどの高さにあったかを決定する調査が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネパールでの調査については,これまでの研究に基づいて調査範囲を拡大,今年度の調査により重要な新知見も得られており,大きな成果があったと言える.しかし,調査期間が限定されたことから,当初予定していたハイドロプレーニングの可能性のある堆積物の調査については,本格的な調査を実施できなかった.実験的研究では,これまでに地すべりの発生に成功していないが,これは地すべり発生時に湖の水位が低下した可能性があることを考慮していないことに原因があると考えられる.実験は成功していないが,このように一定の成果があった.一方で,論文の作成および日本国内での調査については,他の業務との関係から十分な時間をとることができず,遅れ気味であった.研究全体としては,予定よりも進捗の大きかった部分と,遅れ気味であった部分があることから,総合的には順調に推移していると自己評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
カトマンズ盆地でこれまでに行った地すべり堆積物のデータを統括し,これまでに得た地層データおよび次年度に実施予定の調査結果をもとに,地すべり発生直前の湖水準を決定する必要がある.これが地すべり発生メカニズムを理解する鍵を握ると思われる.また,ハイドロプレーニングが発生していたと思われる地層について,昨年度予定していた調査を実施する.とくに調査対象となる地層の基底部分の変形,内部構造の詳細を調べる.今年度はデータのとりまとめに基づき,論文の作成を行う
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