研究課題
南極大陸セール・ロンダーネ山地にはグレンビル期に活動した変トーナル岩体が約70×15km の広範囲にわたり分布する.この岩体はロディニア・ゴンドワナの2度の超大陸造山作用を経験した可能性を有するが,その最初の形成過程は明らかでない.本研究では,本岩体の活動史と成因の解明から,超大陸へと発展した花崗岩質地殻岩石の初期形成過程とそのテクトニクスの解明を目的とした. 本研究では,岩体を成す4つの山塊(ルンケリッゲン・ワルヌム山・ビーデレー山・ニルスラルセン山)について岩石記載・化学分析・年代測定を実施し,(1)岩体区分,(2)マグマの成因解明,および(3)活動年代の決定を行う.平成23年度は主にルンケリッゲンおよびワルヌム山を対象とした.解析の結果,ワルヌム山の岩石はマイロナイト化を被る片麻状トーナル岩で構成され,低Srソレアイトの地球化学的特徴を示すが,ルンケリッゲンの岩石は弱片状トーナル岩で高Srカルクアルカリ・アダカイトの特徴を有することが分かった.同位体分析およびジルコンSHRIMP年代測定からは,ソレアイト質トーナル岩が約998Maに未成熟火山弧の環境で形成されたものであり,アダカイト質トーナル岩は約945Maに沈み込んだ海洋地殻の融解で形成されたことが示唆された.このことから,セール・ロンダーネ山地の変トーナル岩体は,ロディニア超大陸イベントを経験しておらず,未成熟火山弧における花崗岩質初期地殻として形成していたという新たな知見を得るに至った.今後のビーデレー山およびニルスラルセン山の解析が重要である.これらの成果については,学会発表・誌上発表を行った.
1: 当初の計画以上に進展している
研究作業に関しては,南極大陸セール・ロンダーネ山地の変トーナル岩体のルンケリッゲンおよびワルヌム山の岩石記載・化学分析・年代測定を当初計画通りに実施できた.さらに,獲得したデータについて,(1)岩体区分,(2)マグマの成因解明,および(3)活動年代の決定を順調に完了できた.この中で特筆すべきこととして,「本研究対象はロディニア超大陸イベントを経験しておらず,未成熟火山弧の花崗岩質初期地殻として後期原生代に形成していた」という新知見を得るに至った.Pb同位体分析に関しては予備実験を実施し,測定試料の選定を進めて分析準備に入れた. 成果公表に関しては,前述のような新知見の獲得があって学会講演・誌上発表が計画以上の速さで進展した.本課題の関連研究に関する成果公表も順調に進んでいる.
平成24年度は前年度同様の解析手法によりビーデレー山およびニルスラルセン山の変トーナル岩の研究に取り組み,岩体区分・成因解明・年代測定を実施する.本課題達成に必要な基本データは24年度でおおむね取得完了する予定である.課題対象(南極大陸セール・ロンダーネ山地の変トーナル岩体)の23年度の解析結果を踏まえ,変トーナル岩体の活動史と成因に関する考察を行い,岩体形成時のテクトニクスについて予察的モデルを構築する.また,研究成果の学会発表・誌上発表を本年度より精力的に進める予定である. 平成25年度は,研究課題達成のための補足データ(特に岩石化学組成および同位体組成)を取得し,南極大陸セール・ロンダーネ山地の変トーナル岩体に関する前年度までの考察結果を整理・総括し,ゴンドワナ超大陸へと発展していった花崗岩質地殻岩石の最初の形成過程とそのテクトニクスを解明する.また,研究成果の誌上発表を行う.
平成24年度では,主に岩石の処理・化学分析・年代測定にかかる消耗品費のほか,旅費および成果印刷費の使用を予定している.消耗品費の具体的用途は,薄片作成,蛍光X線分析,ICP-MS分析,TIMS分析,SHRIMP分析に必要な薬品・紙類・ガス類・消耗小型部品などの購入である.旅費は学会参加および研究打ち合わせなどである.また,平成23年度からの繰越金が500千円ある.これは予定していたSm・Nd同位体試薬(見積額426千円)に関して,本研究課題採択前に急なデータ取得が必要となり,事前調達を行ったことによる.繰越金については本年度以降の化学分析にかかる消耗品費を増額し,計画当初よりも精密な解析を実施することに活用する. 最終年度(平成25年度)は課題達成のための補足データの取得および研究総括が主となる.経費は分析消耗品費・旅費・成果印刷費に使用する予定である.
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (11件)
Applied Geochemistry
巻: 27 ページ: 796-805
Gondwana Research
巻: 21 ページ: 829-837
10.1016/j.gr.2011.08.013
地質学雑誌
巻: 118 ページ: 20-38
10.5575/geosoc.2011.0021
Precambrian Research
巻: 200-203 ページ: 104-128
10.1016/j.precamres.2012.01.013
American mineralogist
巻: 97 ページ: 268-280
10.2138/am.2012.3827
Polar Science
巻: 5 ページ: 345-359
10.1016/j.polar.2011.03.005