研究課題/領域番号 |
23540539
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
七山 太 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 上級主任研究員 (20357685)
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研究分担者 |
古川 竜太 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 主任研究員 (60357928)
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キーワード | 地形発達史 / 風蓮湖 / バリアーシステム / 地震テクトニクス / 千島海溝 / 北海道東部 / 根室市 / 別海町 |
研究概要 |
風蓮湖バリアーシステムは,オホーツク海の根室海峡に沿って西別川河口からもたらされた沿岸漂砂系によって成立している.このうち別海町側に位置する走古丹バリアースピットは西別川河口から南東方向に延びる12.5km の分岐砂嘴をなしており,5 列の浜堤(BR1-BR5)が明瞭に認識できる.我々の研究グループは,2010年以来,走古丹バリアースピットにおいて測量調査とハンドボーリング調査およびボーリング試料を用いたAMS14C年代およびテフラ年代の検討を実施してきた.特に浜堤間低地の掘削により,泥炭層中に樽前山,北海道駒ヶ岳や摩周起源の完新世テフラが多数見いだされ,概ねの地形発達史を以下のように読むことが出来た. バリアーシステムが現在の位置に成立したのは泥炭層基底の年代から5500 年前と推定されるが,最初のバリアーは現在浸食されて存在しない.その後,5200年前と4000年前に大規模な海進・海退があり,その都度,一時的に干潟環境が広がった.一方,最も若い分岐砂嘴であるBR1は17世紀以降に出現し,現在活動的なバリアーである.BR2は17世紀にあった巨大地震によって離水した浜堤である可能性が被覆するテフラから理解される.BR3およびBR4の離水年代は明確ではないが,それぞれ12-13世紀と9世紀に出現したものと考えている. 2003 年以降,南千島海溝沿岸域では500 年間隔で発生した巨大地震(Mw8.5)の存在が明確になり,特にこの地の地盤は,17 世紀の巨大地震時(もしくはその後)には1~2m隆起し,逆に地震以降現在まで8.5mm/年の速さで沈降してきたことがわかっている.ゆえに,現在のバリアーシステムが地形的に明瞭であるのは,17世紀の巨大地震以降の急激な地震性沈降による影響が大きく,さらにそれぞれの分岐砂嘴の出現は500年間隔地震の地殻変動に規制されていた可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,根室市の春国岱をメインフィールドとして考えていたが,地籍の問題が発覚し,掘削調査を予定通り調査することが出来なかった.一方,別海町の走古丹は,別海町の管理する土地での調査を歓迎していただいたこともあり,予定以上の成果をあげることができた.特に昨年度は泥炭層のAMS年代測定には失敗したが,摩周火山起源の完新世テフラを記載することが出来た.これによって,走古丹湿原の地形発達史が1000年オーダーで解明できた点は大きい.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は3ヶ年計画の最終年度にあたるため,過去2年間の成果を補足し,論文発表に必要なデータセットを補填したいと考えている.今年度の現地調査は,関係者と調整の上,夏~秋に1週間程度実施予定であり,野付風蓮道立自然公園内での調査許可申請を北海道根室振興局に送付済みである.また,今年度も地元の別海町郷土資料館の石渡一人学芸員や北海道教育大学釧路校の池田保夫教授と共同で,科研費研究成果の一部を別海町の町民にお知らせする報告会を行いたいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度実施した泥炭層のAMS14C年代測定年代測定は全て想定された年代より,若い数字が得られている.これらは現世のアシヨシの根の影響が深度3mほどまで及んでいることを示唆している.次年度使用額122,482円を加えた今年度予算については,この経験を生かし,先ずAMS14C年代測定年代の再測定を実施し,これと併せて,珪藻分析と花粉分析を系統的に進めたいと考えている.
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