研究課題/領域番号 |
23540546
|
研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
天野 和孝 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (50159456)
|
キーワード | 化学合成群集 / 暁新世 / 沈木群集 / モミジソデボラ / ハイカブリニナ |
研究概要 |
当初に予定されたいた北海道浦幌町の暁新統活平層から沈木群集と思われる化学合成群集を発見し、同定を進めた。その結果、堆積物食者の二枚貝類、デトリタス食者である巻貝類、腕足類、単体サンゴを含むものの、笠貝類、ハナシガイ(二枚貝)、ハイカブリニナ?(巻貝)など沈木群集に見られる軟体動物群から構成されていることが分かった。この群集は暁新世としては今のところ世界唯一の沈木群集と考えられる。また、北西太平洋では白亜紀末に絶滅したと思われていたモミジソデボラ科巻貝の新種を新生代の地層から初めて発見した。さらに、同じく浦幌町の暁新統常室層に由来すると思われる転石中に化学合成系二枚貝であるツキガイモドキ類とハナシガイ類を採集した。今後の更なる検討が必要であるが、冷湧水群集の可能性はある。いずれにせよ、これら暁新世の群集中には始新世以降に認められているシンカイヒバリガイ類やシロウリガイ類は見られない。さらに、浦幌町の漸新統縫別層の日本最古のシンカイヒバリガイを発見した石灰岩層から化学合成群集に特有な微小な巻貝であるハイカブリニナの新種を発見した。日本の漸新世からは初めての報告となる。他の産地の報告もふまえ、ハイカブリニナ類は新生代以降シンカイヒバリガイ類との随伴性が高いことも明らかとなった。 以上の成果のほか、上越沖から採集された後期更新世~完新世の貝化石を検討し、貝化石群集中に化学合成系二枚貝であるハナシガイとオウナガイを認めた。日本海側の冷湧水群集では、ニュージーランドと同様に中生代に栄えたハナシガイ属の方が新生代型のオウナガイ属に比べて卓越していることも明らかとなった。このことは化学合成群集の変遷を検討する際には、生物地理学的な観点も加える必要性があることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に予定されていた北海道浦幌町の暁新統根室層群上部の活平層から世界でおそらく唯一の沈木群集を発見し、同定できた。この沈木群集については、種レベルでの同定が終了していないが、群集構成の観点からはおよその結果が得られた。また、その際に得られたモミジソデボラ科巻貝の新種について記載論文を投稿した。さらに、同じく浦幌町の暁新統根室層群上部の常室層から化学合成系の二枚貝も発見できた。当初計画していた漸新統縫別層産貝化石群を検討し、ハイカブリニナ属巻貝の新種を発見し、記載論文を投稿し、受理された。こうした成果を地元に還元するため、浦幌町で化学合成群集に関しての講演を行った。 以上の成果のほか、上越沖から採集された後期更新世~完新世の貝化石を検討し、その結果を論文化した。以上から、平成24年度の計画はほぼ達成され、研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
北海道浦幌町から採集された暁新世の沈木群集と化学合成系二枚貝について、東大などに保管されている模式標本との比較検討を行い、種レベルまでの分類学的な検討を行う。また、沈木群集について補足的な調査を行い、リーズ大学の専門家を招聘して現地での討論を予定している。この成果を含め、これまでのリストに基づき当初予定通り白亜紀から中新世の化学合成群集の組成、構造の変化を明らかにする。さらに、捕食頻度を明らかにし、化学合成群集の変化の生態的要因を考察する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の調査で沈木群集を発見した場所での補足的な調査をリーズ大学の講師と行う。また、研究成果を日本古生物学会で2回発表する。さらに、模式標本との比較検討を行う。このための旅費が60万円ほどかかる。調査のための消耗品として10万円、その他としてレンタカー代金15万円を予定している。
|