研究課題/領域番号 |
23540548
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
延原 尊美 静岡大学, 教育学部, 教授 (30262843)
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研究分担者 |
井尻 暁 独立行政法人海洋研究開発機構, 高知コア研究所, 研究員 (70374212)
石村 豊穂 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報部門, 研究員 (80422012)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 層位・古生物学 / 化学合成生態系 / メタン湧水 / 深海生物 / 白亜紀 / 新生代 / 進化 / 海洋生態 |
研究概要 |
地層断面をもとに湧水場の地下構造を復元すること,また湧水特性と化学合成生物群集の構成との対応関係を明らかにすることを目的に,北海道の始新統幌内層および中新統望来層にて現地調査を行った.幌内層では,露頭面における岩相変化や化石の分布について詳細なスケッチを作成し,シロウリガイ類等で構成される化学合成群集は,幅数m以内の局所的な場所に長期にわたって継続していたこと,また地下の泥質堆積物が断続的に水圧破砕を受けており,そのような不安定な湧水経路を初期のシロウリガイ類が利用していたことを確認できた.また中新統望来層に関しては,海崖露頭の予備調査を行った結果,シロウリガイ類を産する石灰岩体近傍に面なし断層様の構造が認められ,断層面にそって一部石灰岩が形成されていることが判明し,次年度以降に詳細な露頭スケッチを作成する候補セクションを選定できた. 以上のような泥質堆積物中におけるメタン湧水石灰岩は,石灰化した巣穴が顕著に発達する砂質シルト相(茨木県の中新統九面層,沖縄県の鮮新―更新統新里層)とは異なり,水圧破砕を伴う局所的な発達で特徴づけられる.泥質堆積物中の石灰岩体は,高知県の白亜系中村層や長野県の中新統別所層の例のように直径20 m以上にもなるが,岩相およびその分布パタンを比較した結果,水圧破砕を局所的に伴う点では共通しており,局所的に発達した石灰岩が多数近接して発達し,見かけ上,巨大な石灰岩となったこと,湧水経路は地下の石灰化に伴い閉塞と移動を繰り返したことが明らかにされた.この成果については学会発表を行った. なお,このような泥質堆積物中のうつろい安い湧水場でのシロウリガイ類の行動を明らかにし化石産状と比較するため,相模湾初島沖における現生シロウリガイ類コロニーの連続ビデオ画像の解析,ならびに無人潜水調査船を用いた人口埋積実験も行い,その試行についても学会発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北海道の始新統幌内層に関しては,露頭スケッチおよび化石・岩石試料の採集が完了していること,また北海道の中新統望来層については基礎調査を終え,詳細な露頭スケッチのための足場建設場所を選定できたことから,初期の予定であった基礎調査を終え,詳細な第2段階の調査に入る準備ができたといえる.なお,調査候補予定地の一つであった茨城県の中新統九面層に関しては,東日本大震災の影響により一部の露頭が水没しており,露頭スケッチ対象が限定されることが確認された. 湧水挙動を化石産状から読み取るためには,現在の化学合成生物群集を観察し,その化石化のプロセスを明らかにしておく必要があるが,これについては,初島沖の調査航海のデータ等により,現生シロウリガイ類コロニーにおける被食被害,埋積行動に対する脱出能力の死殻分布状況など,裏付けデータもほぼ収拾された.これについての新たな成果の一部は本年5月の学会で発表予定である. また,これまでの調査による化石試料の分類学的な再検討も進み,成果発表を準備中である.とくに長野県の中新統別所層の湧水性石灰岩体に見られるシロウリガイ類には3種が認められること,うち一種に関しては望来層のCalyptogena pacificaと一見類似するが,内部歯式の観察により別属にあたることが判明した.高知県の白亜系佐田石灰岩から産する巨大なハナシガイ類については属の帰属が問題となっていたが,模式標本の検討に加え,北海道の始新統幌内層産のオウナガイとの比較を行い,分類記載学的検討はほぼ終了し,学会発表の準備中である. 以上の分類学的データと産出岩相から読み取れる湧水挙動との対応を明らかにしてゆけば,二枚貝における湧水場の利用形態の進化プロセスを構築できる見通しが立ちつつある.
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今後の研究の推進方策 |
北海道の始新統幌内層で得た岩石試料のXRDによる分析および炭素・酸素安定同位体比の測定を行い,化石同定結果とあわせて地下断面の復元を行う.とくに,地下で起きた水圧破砕の岩石学的な特徴を記載し,破砕帯の形状や規模と,化学合成二枚貝化石の産状との対応関係がわかる露頭マップを作成する.これにより小規模で断続的な湧水活動の地下断面モデルを提示したい. 中新統望来層に関しては,足場を建設した上で詳細な露頭スケッチを作成し,分析試料の採集を行う.とくに面なし断層様の構造の連続性,規模,内部での炭酸塩の分布や岩相,シロウリガイ類などの化学合成二枚貝の分布状況との対応をマッピングし,炭酸塩の炭素・酸素安定同位体比などの分析を行う. なお,必要に応じて,その他の地域の現生・化石双方の化学合成群集の炭酸塩岩および生物試料の比較解析を行う予定である.化石については,高知県の白亜系中村層,長野県の中新統別所層,静岡県の鮮新統満水層,沖縄県の鮮新-更新統新里層などのこれまで採集している標本を対象に比較検討を継続し,補足調査も行う.また,初島沖の現生コロニーについては,連続キャプチャ画像の解析を継続し生貝の行動観察データをまとめたい.また死殻集団の年齢構成や殻の保存状態を,採集試料を用いて解析し,化石産状を解釈する上での基礎データを構築する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
北海道の望来層における露頭スケッチ作成のための足場建設を,8~9月にかけて業者に委託して行うため,謝金を使用する.なお,建設場所は海崖にあり資材の搬入や安全性を考慮しつつ行う必要があるため,足場建設後の露頭マッピング調査に加え,予備調査のための旅費も使用する予定で,現地でレンタカーも借用する.なお,調査旅費に関しては,上記の望来層に加えて,必要に応じて他地域のメタン湧水性石灰岩との試料比較のための調査,および成果発表も含まれる. また,採集試料の炭素・酸素安定同位体比の分析のための物品・消耗品を購入するための費用を,分析を担当する研究分担者に配分する.研究分担者には必要に応じて現地調査に参加し,現地での討論が可能なように,またそれぞれの成果を発表し議論できるよう,旅費も計上した. なお,物品・消耗品に関しては,化石試料の整理のためのチャック付き袋や標本ケース,画像解析のための補助ツールなどの機器の購入に使用する予定である.画像解析は,露頭における化石産状や岩相のマッピングに加えて,初島沖の現生シロウリガイ類コロニーにおける生貝の行動記録をトレースし,映像化するための試みを行う.そのための必要に応じてソフトウエアや入力デバイスを購入する.
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