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2011 年度 実施状況報告書

貝殻形態の異質性にかかるバイアスの評価と不偏な形態空間の探索

研究課題

研究課題/領域番号 23540549
研究機関静岡大学

研究代表者

生形 貴男  静岡大学, 理学部, 准教授 (00293598)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード形態空間 / 異質性 / 理論形態学 / 形態測定学
研究概要

従来,古生物の多様性変遷史は,主に分類群の数で表される分類群多様度によって評価されてきた.その一方で,形態的特徴である異質性(disparity)の研究は,その重要性にもかかわらず,評価の仕方が一筋縄では行かないために,後れをとってきた.異質性は,形態測定学的あるいは理論形態学的変数等によって定義される理論形態空間における実形態の占める広さによって見積もられるが,従来の方法による解析結果は様々なバイアスに晒される.本研究では,貝殻形態を対象に,バイアスを受けにくい異質性解析のプロトコルを模索した. まず,貝殻形状を表す従来の様々な理論形態モデルについて,それによって定義される形態空間がどのようなバイアスを受けているかを評価した.形態を定義するパラメターの間に代数的従属関係があると,実際には意味のない疑似連関が計測値の間に発生し得る.そこで,理論的に予想されるのと同傾向の連関関係が実測値でどの程度見られるかを調べることによって,これまでに提唱された幾つかの主要モデルについて異質性評価ツールとしての実用性を評価した.その結果,貝殻形状を描くための従来の理論形態モデルは,いずれも同様の形態的属性を表現するにも関わらず,理論的に懸念されるパラメター間の疑似連関が顕著に現れる場合とそうでない場合とがあり,特にこれまで最も広く使われてきたRaup (1966)のモデルで深刻であることがわかった. 上記の結果に基づき各モデルやパラメターの性質を検討した上で,こうした問題を克服あるいは緩和する理論形態モデルを新たに考案した.また,パラメター値を実際の標本から見積もる手順を検討し,計測誤差についても反復測定によって評価した.巻貝を用いた解析の結果,パラメター間の疑似連関と計測誤差のいずれについても,新たに考案した改良型モデルの方がRaupモデルに比べてだいぶ緩和されていることがわかった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

交付申請書記載の初年度の研究計画では,1)計測用の画像データの習得と,2)理論形態パラメターのバイアスの評価を行うことになっていた.後者は具体的には,2-1)標本からの実測手順の確立,2-2)反復測定からの誤差分布の評価,2-3)種内変異の解析,2-4)種間比較,2-5)異質性に関する従来尺度の評価を予定していた.これらのうち,1),2-1),2-2),2-4)については「研究実績の概要」に記載の通りの成果を得た.1)に関しては,具体的にはアンモナイト165種,巻貝782種,二枚貝277種についてデータを取得済みである.2-3)についても,字数の都合で「研究実績の概要」では割愛したが,新たに考案した改良型モデルの各パラメターについて分布を検討し,対称な一峰性分布に変換できることを確認している.2-5)についても,異質性の指標として従来広く使われている平均ペアワイズ距離という尺度について,アンモナイト,巻貝,二枚貝のそれぞれにおいて,各パラメターがどのような分布となるのかを検討した.以上のように,概ね当初計画通りに進んでいる.

今後の研究の推進方策

初年度は,主に形態空間における実形態の分布にかかるバイアスについて解析してきたので,今後は,異質性の評価方法に関する基礎研究に軸足を移す.異質性は,どれだけ大きなサイズのサンプルから見積もるか,あるいはどれだけ広い範囲の系統のものを含んだ試料から評価するかによっても大きく影響される.そこで,あるサンプルがどれだけ多様な分類群を含むかを示す分類学的多様度指数を使って,この指数と各サンプルから見積もれる異質性とを様々な分類階級で比較し,分類学的多様度指数によって異質性を基準化する方法を模索する.また,初年度は,アンモノイド,巻貝,二枚貝などの分類群をそれぞれ別々に解析してきたが,今後はそれらの異質性を統一的に比較することを可能とするような計測パラメターを探索する必要がある.その際には,これまで検討してきた理論形態学的方法だけだなく,広く使われている形態測定学的方法に基づくものも検討する.さらに,個体発生変異についても同様の方法で評価して分類群の異質性や種内変異と比較し,個体発生変異を考慮しない場合と異質性の評価がどれくらい異なるかを検討する.

次年度の研究費の使用計画

三次元形態測定学的手法を試すに当たり,既存の電磁気式三次元位置センサーに付けるスタイラスレシーバPolhemus ST8を導入し,計測の精度向上と効率化を図る.また,画像データの取得,測定,計測データの解析,あるいはそれらを行うプログラム・環境の開発のために,ソフトウェアー各種(画像取り込み,統計解析,プログラミング等)を導入する.また,現生・化石試料の採集(北海道),博物館等保管標本の画像取得・計測,研究成果公表(地球惑星科学連合大会,古生物学会,進化学会,地質学会,International Geological Congress等)のために旅費を使用する.

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Constraint of morphological variation in gastropod snails2012

    • 著者名/発表者名
      Noshita, K., Asami, T. and Ubukata, T
    • 雑誌名

      Paleobiology

      巻: vol.38 ページ: 322-334

    • DOI

      10.5061/dryad.6mk023c0

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 生物のかたちの測定と比較2011

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 雑誌名

      化石

      巻: 89 ページ: 39-54

    • 査読あり
  • [学会発表] 描くためのモデルから測るためのツールへ:巻貝の形態空間解析が低調な理由とその解決策2012

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本古生物学会第161会例会
    • 発表場所
      群馬県立博物館(富岡市)
    • 年月日
      2012年1月21日
  • [学会発表] 貝殻形状の理論形態空間における疑似連関2011

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本地質学会第118年学術大会
    • 発表場所
      茨城大学(水戸市)
    • 年月日
      2011年9月11日
  • [学会発表] 形は変わるが成長率パターンは?:アンモノイドの殻形態と殻口マップの個体発生変異2011

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本古生物学会2011年年会
    • 発表場所
      金沢大学(金沢市)
    • 年月日
      2011年7月3日
  • [学会発表] アンモノイドの殻断面形状における個体発生変異の輪郭形態測定学2011

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本進化学会2011年大会
    • 発表場所
      京都大学(京都市)
    • 年月日
      2011年7月30日
  • [学会発表] 理論形態空間の限界:パラメター同士の非直交性2011

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本地球惑星科学連合2011年大会
    • 発表場所
      幕張メッセ(千葉市)
    • 年月日
      2011年5月22日
  • [図書] 進化学事典2012

    • 著者名/発表者名
      日本進化学会編(分担執筆)
    • 総ページ数
      975
    • 出版者
      共立出版

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公開日: 2013-07-10  

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