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2012 年度 実施状況報告書

貝殻形態の異質性にかかるバイアスの評価と不偏な形態空間の探索

研究課題

研究課題/領域番号 23540549
研究機関静岡大学

研究代表者

生形 貴男  静岡大学, 理学部, 准教授 (00293598)

キーワード異質性 / 形態空間 / 多様性 / サンプリングバイアス
研究概要

形態的多様性を表す異質性は,どれだけ大きなサイズのサンプルから見積もるか,あるいはどれだけ広い範囲の系統のものを含んだ試料から評価するかによっても大きく影響される.そこで,貝殻形態を対象として,あるサンプルがどれだけ多様な分類群を含むかを示す分類学的多様度指数を使って,この指数と各サンプルから見積もれる異質性とを様々な分類階級で比較し,分類学的多様度指数によって異質性を基準化する方法を模索した.
まず,Clarke and Warwick (1999)に従って2個体間の分類学的距離を求め,その平均ペアワイズ距離として,分類群毎の分類学的多様度指数を評価した.一方,形態的距離については,形状を表すパラメータ値を定義し,その実測値を基準化して2個体間の距離を求めた.そして,形態パラメータ毎に,形態的距離の中央値と四分偏差を分類学的距離に対して回帰し,その回帰残差に基づいて標準化異質性を定義した.
上記の方法を用いて,軟体動物有殻類(頭足類,腹足類,二枚貝類)1,200種以上について基準化異質性を求めたところ,腹足類では,カサガイ類やタニシなどの原始中紐舌類が保守的な一方,モノアラガイなどの基眼類や,アマオブネガイ類,サザエやアワビを含む古腹足類などが高い可塑性を示すことがわかった.また,アンモノイドでは,古生代の一時期に繁栄したクリメニア類,トルノセラス類,ゴニアタイト類などが保守的で,逆に大量絶滅後の適応放散の根幹となったプロレカニテス類やフィロセラス類などは可塑性が高めという結果を得た.二枚貝では,独自の生態を持つツキガイの仲間が最も保守的で,イタヤガイ類以外の翼形類は全体的に可塑的という傾向となった.以上の結果は,基準化異質性で評価した形態的多様性が,各系統の生態学的特性と密接に関連していることを示唆する.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

23年度提出時の交付申請書記載の24年度の研究計画では,1)データのサンプリング効果の評価と,2)個体発生変異の評価を行うことになっていた.前者については,幾何学的形態測定学的データからサブサンプリングを実施することによって評価される異質性の頑健性を検討する予定だった.これに対して,研究を進めるうちに,単なるサンプルサイズだけではなくそのサンプルの系統的なサイズも考慮する必要があることに気付いたため,系統サイズまで含めてサンプリング効果を補正する手法を検討し,新たな方法を考案した.2)に関しては,字数の都合で「研究実績の概要」では割愛したが,多次元フーリエ解析の一種である球面調和関数変換を利用して,輪郭解析に“時間軸”を入れた新たな方法を考案し,各成長段階での殻の輪郭形状とその個体発生変化を同時に記述する方法を確立した.この点については当初の計画通りである.以上のように,研究が進むにつれて当初計画から変更された部分もあるが,基本的には当該研究課題の研究目的に向けて概ね順調に進んでいると言える.

今後の研究の推進方策

これまでは,主に形態間の差異(dissimilarity)に基づく異質性の評価方法を模索してきたが,現在の古生物多様性変遷研究で広く採用されている分類群の多様度を表す指数はむしろ分類群数に基づく豊富度(richness)である.分類群多様性を比較するにしても,差異(dissimilarity)的な尺度である分類群多様度指数(taxonomic distinctness)と豊富度ではそれぞれ異なる評価をもたらす.しかしながら,従来の異質性の評価は,基本的には差異(dissimilarity)に基づく尺度のみが用いられてきた.そこで,形態の豊富度を表す尺度を新たに考案し,異質性を従来型の分類学的多様度性と同じ土俵で比較する方法を模索する.ただし,豊富度に基づく異質性尺度はサンプルサイズに直接的な影響を受けるので,多様性研究で用いられている最新のサブサンプリング法をベースにして,サンプリング効果を補正する方法を考案する.これに前年度までの研究成果を合わせて,パラメータ間の疑似相関や,形態空間の歪みの影響,サンプリング効果によるバイアス,異質性尺度に由来するバイアス等を受けにくい形態空間を模索する.

次年度の研究費の使用計画

画像データの取得,測定,計測データの解析,あるいはそれらを行うプログラム・環境の開発のために,ソフトウェアー各種(画像取り込み,統計解析,プログラミング等)を導入する.また,現生・化石試料の採集(北海道),博物館等保管標本の画像取得・計測,研究成果公表(地球惑星科学連合大会,古生物学会,進化学会,地質学会等)のために旅費を使用する.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2012 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Constraint of morphological variation in gastropod snails2012

    • 著者名/発表者名
      Noshita, K., Asami, T. and Ubukata, T
    • 雑誌名

      Paleobiology

      巻: vol.38 ページ: 322-334

    • DOI

      10.5061/dryad.6mk023c0

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 古生物異質性変動の復元に向けて:地球生命史研究の新展開2012

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 雑誌名

      月刊海洋

      巻: 44 ページ: 287-292

  • [学会発表] 貝殻の異質性の綱を越えた比較は可能か

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本地球惑星科学連合2012年大会
    • 発表場所
      幕張メッセ国際会議場(千葉県)
  • [学会発表] 異質性評価における系統サイズ効果:貝殻形態の例

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本古生物学会2012年年会
    • 発表場所
      名古屋大学(愛知県)
  • [学会発表] 分類学的多様度指数から見た蝦夷層群産アンモノイドの多様性

    • 著者名/発表者名
      山下修平・生形貴男
    • 学会等名
      日本古生物学会2012年年会
    • 発表場所
      名古屋大学(愛知県)
  • [学会発表] A three-dimensional morphometric method for bivalve shell form

    • 著者名/発表者名
      Ubukata T.
    • 学会等名
      The 34th International Geological Congress
    • 発表場所
      Brisbane, Australia
  • [学会発表] 古生物の系統的多様度による形態的多様性の標準化

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本地質学会第119年学術大会
    • 発表場所
      大阪府立大学(大阪府)
  • [学会発表] 形態的豊富度・均等度を表す異質性尺度

    • 著者名/発表者名
      生形貴男
    • 学会等名
      日本古生物学会第162会例会
    • 発表場所
      横浜国立大学(神奈川県)
  • [図書] 東大古生物学:化石から見る生命史2012

    • 著者名/発表者名
      佐々木猛智・伊藤泰弘編
    • 総ページ数
      390
    • 出版者
      東海大学出版会

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公開日: 2014-07-24  

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