研究課題
円石藻の多くの系統は,それぞれの系統の歴史の中で,地質年代の経過に伴ったコッコリスのサイズの変化(種分化)を何度も経験してきた.本研究は,コッコリスのサイズ変化をともなった種分化の根本的な原因を,化石記録と現生種の分子情報に基づいて検証・解明することを目的としている.平成23年度は以下の研究を行った.IODP306次航海によって,北大西洋のsite 1313から採取された深海底コア試料中のGephyrocapsa 属化石を走査型電子顕微鏡を用いて検鏡し,完新世におけるGephyrocapsa 属化石の形態とサイズ変化の概要を調べた.Gephyrocapsa 属によって作られるコッコリスの形態・サイズと分子情報の関連を調べるために,日本の各地の海水からGephyrocapsa 属の培養株の確立を行った.その結果,東京都小笠原村の兄島沿岸から6株,宮城沖の海水から12株,鳥取沿岸の海水から6株,五島列島沖の海水から10株,土佐湾の海水から2株のGephyrocapsa oceanica の培養株を確立した.研究協力者(Ian Probert 博士,ロスコフ海洋生物研究所)から,大西洋,地中海,南太平洋産のGephyrocapsa 属の培養株の分譲を受けた.また,国立環境研究所の微生物系統保存施設から4株のG. oceanica の培養株を分譲していただいた.以上の培養株が形成するコッコリスの形態的特徴を調べるために,各培養株のコッコリスの形態観察と形態測定を走査型電子顕微鏡下でおこなった.来年度に実施する分子系統解析の予備実験として,五島列島沖と鳥取沖から得られた培養株のミトコンドリア部分塩基配列の増幅とシークエンスを行った.そして,今後の実験に使用するプライマーの選定を行った.
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では,福島から宮城沖の混合水域(黒潮と親潮の混合水域)にて複数回のサンプリングを行い,黒潮起源と親潮起源のGephyrocapsa oceanica の培養株を確立する計画であった.しかし,東日本大震災の影響で予定していた海域での実施が難しくなった.そのため,代わりとして,長崎沖,土佐沖,小笠原沿岸などの海水を入手し,分子系統解析に使用する培養株の産地に多様性を持たせることができた.
Gephyrocapsa oceanica のサイズ変化を伴った多様化と進化の歴史を,地質学的・生物学的証拠に基づいて検証するために,本年度は以下の研究を行う.1.昨年度に引き続いて,IODP306次航海で採取された堆積物中のGephyrocapsa 属化石の形態測定を走査型電子顕微鏡を用いて行い,同属の形態進化の過程の詳細を化石記録に基づいて明らかにする.2.引き続き海水試料中からのGephyrocapsa 属の培養株の確立を行い,Gephyrocapsa ericsonii の培養株の確立を目指す.3.確立した培養株の形態測定を走査型電子顕微鏡を用いて行う.4.確立した培養株それぞれののミトコンドリア部分塩基配列を取得し,形態進化と遺伝学的多様性の関係を検証する.
1.Gephyrocapsa oceanica の分子系統解析を行うために,サーマルサイクラー(28万円),ゲル撮影装置(27万円),冷却機能付き高速遠心分離器(36万円),電気泳動装置(3万円),プラスチック容器類(20万円),試薬類(40万円)を購入する.2.東京都三宅島にて海水試料のサンプリングを行う(16万円)3.培養液作成に必要な試薬類(10万円)や使い捨て培養容器(約10万円)を購入する.4.研究成果を2012年7月14~16日に北海道大学で行われる日本藻類学会(北海道),2013年1月に東京大学大気海洋研究所で行われる古海洋シンポジウム(千葉県)と,2012年12月中旬に行われるAGU Fall meeting(カリフォルニア州,アメリカ)にて発表する(学会発表のための旅費合計40万円).
すべて 2011
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Journal of Phycology
巻: Vol.47 ページ: 1164-1176
10.1111/j.1529-8817.2011.01053.x