研究課題
古生代末の大量絶滅に至るグローバルな海洋環境変動を解明するために,パンサラッサ遠洋域に堆積した最上部ペルム系層状チャートに含まれる放散虫サイズと,チャートの化学組成や岩相との関係の研究を開始した.本研究は,放散虫サイズの変動が,生物生産性を支配する栄養塩類の溶存量,陸源フラックスの相対的変動,あるいは海洋の酸化還元状態などとどのようにリンクしているのかを明らかにすることが目的である.これらの関係が実証できれば,放散虫サイズ変動の測定は栄養塩類供給量を規制すると考えられる気候変動復元の有力なツールとなる. 本年度は,岐阜県関市板取地区での野外調査と試料採取を行い,2つの新たなセクション(GAおよびGUセクション)の試料を整えた.採取したチャート試料は,フッ酸処理法により化石抽出作業を開始するとともに,化学組成分析を開始した.放散虫化石の検討からは,いずれもペルム紀最末期の化石群集が得られることが確認された. 同地区のGCセクションで単層ごとに採取された層状チャートの既存試料について,放散虫サイズの検討を行った.新たに購入した生物顕微鏡を使用してアルバイレラ・トリアンギュラリスの写真撮影し,計測システムで殻上部高の計測を行った.一層準あたりの計測個体数はまだ少ないものの,セクションを通じて,殻上部高の平均値が変動していることが確認された. 今回の検討で,アルバイレラ・トリアンギュラリスの種の生存区間中に,少なくとも2周期の殻サイズの変動が確認され,ペルム紀最末期に向かっては殻サイズが減少傾向にあることが明確になった.放散虫化石の形態変化の詳細が示された点で意義がある.本結果は予察的なものであるが,国際学会での発表を行い,各国の研究者と議論をすることができた.
3: やや遅れている
当初計画よりも,全般にやや遅れている.生物顕微鏡は早くに納入されたが,顕微鏡付き計測システムが使えるようになった時期が2月初旬と遅くなった.このため,十分な個体数による形態計測が行えていない.また,薄片による岩相観察,化学分析の結果との比較がまだである.一方で,新たなセクションの試料採取を行って,研究を開始できたことは,当初計画よりも比較対象が増えた点で進展である.
古生代末のグローバルな海洋環境変動解明の手がかりをえるため,化石のデータと化学組成分析から得られた岩石の主成分・微量元素のデータをグラフ化し,変動の周期やパターンを解析する.薄片観察の結果と合わせ,放散虫の変動と呼応する因子を探る予定である.このため,次の研究を平行して行い,その結果を総合する.1.アルバイレラのサイズ計測: 殻成長を反映する形質として,殻上部高さの計測を行う.計測値に統計的な意味を持たせるには1層準あたり保存良好な個体が30個体以上必要であるため,1枚のスライドに含まれるアルバイレラの個体数に応じて,酸処理とスライド作成を繰り返す.2.全群集の構成種数とアルバイレラ頻度の計数:全放散虫群集中の構成種数は,生物顕微鏡下でスミヤスライド2~3枚中に検出される種数とする.アルバイレラの産出頻度は,スライド単位面積中に含まれる個体数として計数する. 3.化学組成分析:層状チャート珪質部の全岩化学組成分析を行う.蛍光X線分析装置(XRF)による主成分元素含有量の測定,および誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)による微量元素含有量の測定をそれぞれ行う.4.岩石薄片とエッチング面の観察:層状チャートの層理面に垂直な岩石薄片を,全ての試料について作成する.偏光顕微鏡での観察を行い,写真撮影と詳しい岩相記載を行う.また,層理面に垂直なチャート断面のフッ酸エッチング面を実体顕微鏡で観察する.放散虫化石の配列や密度,堆積構造を検討する.
データ解析のためのパソコンおよびソフトを購入する.化石抽出用の薬品,化学組成分析用薬品など消耗品も必要である.旅費は,化石抽出処理のための旅費(フッ酸を使用するため,ドラフト設備のある九州大学で桑原が行う).研究打ち合わせ,成果発表のために使用する.なお平成23年度において,平成24年3月~4月の国際学会参加への旅費が支出できなかったため,次年度使用額が生じた.このため,本件の旅費も支出する予定である.
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (20件)
Facies
巻: 58 ページ: 113-130
10.1007/s10347-011-0270-4
Journal of the Mining and Materials Processing Institute of Japan
巻: 128 ページ: 94-102
Nature Geoscience
巻: 4 ページ: 535-533
10.1038/NGEO1185
Contributions to Mineralogy and Petrology
巻: 163 ページ: 483-504
地質学雑誌
巻: 117 ページ: 217-237
資源地質
巻: 61 ページ: 1-11
In: Y. Yamada et al. (eds.), Submarine Mass Movements and Their Consequences, Advances in Natural and Technological Hazards Research, Springer Science+Business Media B.V.
巻: 31 ページ: 639-648
Palaeogeography Palaeoclimatology Palaeoecology
巻: 308 ページ: 65-83
10.1016/j.palaeo.2010.07.007