研究課題/領域番号 |
23540557
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中村 大輔 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50378577)
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研究分担者 |
平島 崇男 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90181156)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | チェコ共和国 / 橄欖岩 / エクロジャイト / 超高圧変成岩 / マントル / 地殻 |
研究概要 |
大陸―大陸衝突型造山帯の一つとなるチェコ共和国・ボヘミア山塊のNove Dvoryで採集済みの地下深部物質について、岩石学的研究を行った。そのNove Dvoryには著しい高温高圧条件(1000℃、4GPa以上)で形成されたザクロ石橄欖岩体が産する(Medaris et al., 1990)。その橄欖岩体に伴う藍晶石と含むエクロジャイトからも同様の著しい高温高圧条件で形成されたことを申請者の先攻研究で見出していた(Nakamura et al., 2004)。本研究では、著しい高温高圧条件に至る昇温時に形成されたと考えられる化学組成累帯構造を保持しているザクロ石を発見した。このような高温高圧条件下でも均質化されることなく昇温時の化学組成累帯構造が保持されていることは、その加熱期間が非常に短かったことを示唆している。そこで、ザクロ石の均質化に掛かる時間をザクロ石の元素拡散係数を用いてモデル計算を行ったところ、その加熱期間は長くても100万年程度であることが分かった。このことは、同岩体が地下深部から非常に速く上昇・冷却されたことを示唆している。 また、同岩体のザクロ石橄欖岩のザクロ石中にスピネルが残存していることを発見した。スピネルはザクロ石より低圧で安定な鉱物であり、この発見は同岩体が沈み込みを経験したものであることを示している。また、エクロジャイトからも昇温や加圧を示す組織を発見しており、同岩体はもとから地下深部にあったものが地表まで上昇してきたものではなく、比較的浅いところにあったものが地下深部まで沈み込み、上昇してきたものだと考えられる。 大陸―大陸衝突時に沈み込んだ地殻物質とそれに伴って地下深部へ引き込まれたマントル物質が合体し、その後、地表まで上昇してきたと考えるのが妥当である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在はチェコ共和国のザクロ石橄欖岩とそれに伴うエクロジャイトの研究を主に行っている。その中でも高温高圧条件(1000℃, 4GPa以上)までの昇温時の組成累帯構造を保持しているザクロ石の発見はこれまでの常識を覆すような発見と言える。そのザクロ石の昇温累帯構造が保持されるには、変成加熱期間が100万年以下であるという結果となった。これは地質学的にはあまりにも短い期間であり、反論する研究者も少なくないであろう。 また、そのエクロジャイトから、ほぼ均質なザクロ石や見かけ上降温期型の組成累帯構造を示すザクロ石が混在していることが分かってきた(中村他, 2011)。そこで、そのエクロジャイト試料のスラブ断面に対してX 線分析顕微鏡等を用いて、広範囲(最大5 x 10 cm2程)のX線マッピングを行ったところ、FeやTiに富む層とFeやTiに富む層に分かれていることが判明した。この組織は火成岩原岩形成期の初生的組成構造を反映しているものと考えられる。その為、初生的組成構造とザクロ石の累帯構造の解析に多くの時間を費やすことになった。その解析の結果、現時点では、昇温時の組成累帯構造を保持しているザクロ石はFe, Tiに富む層に分布し、見かけ上降温期の組成累帯構造を示しているザクロ石はFe, Tiに乏しい層に分布していることが分かってきた。 また、この研究途中に研究地域のエクロジャイトは部分的に融解している可能性があることが分かってきた。これは本研究課題の目的ではなかったが、地殻形成過程の解明においては重要な発見であり、その研究も並行して行っている。このエクロジャイトが部分融解をしている可能性があることは、同岩体の進化史を明らかにする上でも重要であり、引き続き研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先ず、上記の昇温時の組成累帯構造を保持しているザクロ石を含む試料に関する論文を出来る限り早く投稿する。その作業と並行して、現在執筆している造山帯ザクロ石橄欖岩とエクロジャイトの形成温度圧力(史)の推定方法とその課題に関する総説論文も近いうちに投稿予定である。 また、6月にはチェコ共和国・Nove Dvoryを再訪し、エクロジャイトと橄欖岩の追加試料採集を行う。特に斜長石脈のあるエクロジャイトの産状観察と収集を中心的に行う予定である。この斜長石脈は地下深部岩石が地表に上昇する際にエクロジャイトと橄欖岩からなる岩体に外部から貫入したものか、あるいは、岩体自身の部分溶融によって出来たメルト、のいずれかである可能性がある。このエクロジャイトと橄欖岩の岩体の周囲は部分溶融組織を示すミグマタイトで取り囲まれている。このミグマタイト中のジルコン結晶からも、そのミグマタイトが地下深部(>90km)にまで沈み込んだ痕跡が見出されている(Kobayashi et al, 2008)。 以上のことから、部分溶融時期の精密決定、あるいは、部分溶融した岩石種の決定を行うことは、地下深部岩石の地表への上昇メカニズムを考える際に重要なデータともなる。追加収集した試料についてEPMAやレーザーアブレーション装置付きのICP-MSを用いて詳しく分析する。 また、研究実績の概要で記述したように、ザクロ石橄欖岩からスピネルを発見しており、その記載と解析結果を学会発表し、早急に論文化する。
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次年度の研究費の使用計画 |
備品:光学顕微鏡観察の際の解像度を向上させるために、偏光顕微鏡用の高精細デジタルカメラシステムを導入する。旅費:6月にチェコ共和国へ野外調査と岩石試料の採集に行くので、その旅費を使用予定である。また、9月の鉱物科学会(京都)で学会発表をする予定であり、その旅費を使用する。消耗品費:EPMAもしくはレーザーアブレーション装置付きのICP-MS分析用に消耗品を計上する。その他:別刷り代。
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