研究課題/領域番号 |
23540557
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
中村 大輔 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50378577)
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研究分担者 |
平島 崇男 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90181156)
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キーワード | チェコ共和国 / 橄欖岩 / エクロジャイト / 超高圧変成岩 / マントル / 地殻 |
研究概要 |
大陸―大陸衝突型造山帯となるチェコ共和国ボヘミア山塊や中国蘇魯地域に産するエクロジャイトやザクロ石橄欖岩の岩石学的研究を行い、それらの進化履歴を解明するのが本研究の目的となる。それらの岩石は石英の高圧多形となるコース石が安定となる圧力(>3GPa、深さ100km以深)下で変成作用を受けたもので、それらがどのように地下深部まで沈み込み、地表まで上昇してきたのか?が大きな疑問となっている。特に、これまでの研究で、ボヘミア山塊のザクロ石橄欖岩やエクロジャイトは、1000℃,4GPa以上の超高温超高圧条件を経験していることが分かってきている(Medaris et al. 1990; Nakamura et al. 2004)。しかし、その一方で、そういった超高温超高圧条件にいたるまでに、それらの岩石がどこにあったのか?が、未だ明らかではない問題の一つである。 前年度までの研究で少なくともチェコ共和国のNove Dvoryに産するエクロジャイトは、超高温超高圧条件に達するまでに沈み込みと加熱を経験していることが明らかになってきた。それはエクロジャイト中に含まれるザクロ石に昇温を示す化学組成累帯構造が見いだされたことによる。また、通常、1000℃程の高温条件まで達すると元素拡散が活発になり、それ以前の情報はかき消されてしまうが、本研究で見出した試料には昇温時の記録が残っている。このことは、これらの岩石の加熱期間が地質学的時間スケールでは非常に短いものであったことを示している。元素拡散のモデル計算を行ったところ少なくとも100万年未満の短い加熱しか受けていないと推定された(Nakamura et al. 投稿中)。また、その地表までの上昇速度もかなり速かったと推測される。プレートテクトニクスに伴う岩石の「移動速度」は従来考えられているものより遥かに速いものかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究でチェコ共和国Nove Dvoryのザクロ石橄欖岩とエクロジャイトは、1000℃, 4 GPaといった超高圧超高圧条件に達するまでに昇温や加圧を経験していることが分かってきた。しかし、新たにザクロ石橄欖岩の分析と解析を行った結果、その最高到達温度圧力は用いる地質温度圧力計の種類によって、かなり異なった結果を示すことが分かってきた(中村他 2012)。特に単斜輝石―斜方輝石温度計を適用すると800℃程度の相対的に低温を示す傾向がある。この問題については今年度、詳しく検討する予定である。 また、前年度、中国の蘇魯地域のエクロジャイトの温度圧力履歴を読み取ることを目的として、中国東海地区のエクロジャイトの分析を行った。その解析過程で、分析したエクロジャイトは用いるデータによっては900℃程のかなり高温の変成温度を与えてしまうことが判明してきた。そこで、分析したデータから得られる変成温度と単斜輝石中のヒスイ輝石成分の量の間の関係を詳しく検討した。その結果、ヒスイ輝石成分が増えるにつれて、見かけの変成温度が高くなる傾向があることが分かった。これは同じ蘇魯地域のYangkou地区に産するエクロジャイトで発見された傾向(Hirajima 1995)と同じである。つまり、ヒスイ輝石成分を多く含む単斜輝石を用いて変成温度を見積もると真の温度よりかなり高い温度を与えてしまうと言える。この問題に関しても今後、より詳細に検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
先ず、チェコ共和国Nove Dvoryに産するザクロ石橄欖岩の変成温度圧力条件を詳細に再検討する。上記したように、このザクロ石橄欖岩が経験した最高変成温度圧力条件は用いる地質温度圧力計の種類によって大きく変化する。これは個々の温度計や圧力計の確度の問題かもしれないが、上昇冷却期の組成改変によるものの可能性もある。地質温度圧力計は温度や圧力依存性の強い反応を用いて、構成鉱物の化学組成から平衡時の温度や圧力を復元するものである。しかし、鉱物の種類や拡散する元素の種類によって反応の進行の速度は異なってくる。そのため、進行速度の速い反応を基にしている温度計では冷却期間にも反応が進行して最高変成温度時の化学組成が保持されていないことが考えられる。この影響を完全に取り除く方法はないが、岩石中の組織(鉱物粒子の大きさや化学組成累帯構造の有無など)を丹念に調べることによって、最高変成温度時の化学組成を保持している鉱物粒子と組成改変してしまった粒子を区別することは可能かもしれない。何れにしても、このザクロ石橄欖岩をさらに詳細に観察・分析して、考察を行う。 また、前年度に得られた中国・蘇魯地域のエクロジャイトの見かけ上の変成温度とヒスイ輝石含有量の関係を引き続き検討する。分析したエクロジャイトは減圧冷却期に形成されるような化学組成累帯構造は持たず、概ね均質であり、冷却期の組成改変によって作られた化学組成の特徴ではないだろう。しかし、分析した鉱物粒子の累帯構造をすべて確認している訳ではないので、その吟味を行う。 時間上、これから1年以内に公表することは出来ないが、以上の研究成果を論文化して、国際誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費:本年度は9月2日~10日にイタリアで開催される国際エクロジャイト会議へ参加し、前年度までに行った研究について発表予定である。これは本研究内容を広く国際的に認知してもらう良い機会となる。また、その後、日本国内(仙台)で開催予定の日本地質学会に参加して、本研究内容の一部を発表する。以上の学会参加にかかる旅費を使用予定である。 消耗品費:EPMA等を用いた化学分析に必要となる消耗品を計上する。 その他:別刷り代。
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