研究概要 |
超高圧変成岩の進化履歴の解明を目的として、ヴァリスカン造山帯東端のボヘミア山塊のザクロ石カンラン岩およびそれに伴うエクロジャイトの研究を行なった。先ず、研究地域のザクロ石カンラン岩はこれまでの研究で、少なくとも4GPa, 1000°C以上の超高圧・超高温の条件下にあったことが明らかになっているが、そのカンラン岩はもともと地下深部にあったものが地表まで上昇してきたものだとされていた。しかし、前年度までの研究でザクロ石中にスピネル包有物が存在することを明らかにした。スピネルはザクロ石より低圧下で安定な鉱物であり、この観察事実は、このカンラン岩が少なからず圧力上昇(沈み込み)を経験していたことを示している。本年度は、そのスピネル包有物を含む試料をより詳細に分析して、その到達変成温度圧力条件の再検証を行なった。その試料に含まれるザクロ石・単斜輝石・斜方輝石をEPMAで分析し、化学組成累帯構造の有無・粒子による組成差の有無などを検討した上で、最新のザクロ石-単斜輝石温度計・ザクロ石-斜方輝石温度計・ザクロ石-斜方輝石圧力計・両輝石温度計を適用した結果、やはり、このスピネル包有物を含む試料においても、約5GPa,1000-1100°Cといった超高圧・超高温条件を示した。次に同地域のエクロジャイトには様々なタイプの化学組成累帯構造を示すザクロ石が存在することを明らかにしている。1試料中でもザクロ石粒子が存在する場所によって、その組成累帯構造のパターンが異なり、リム部へ向かってそれらの化学組成が近づく傾向がある。これは元々の原岩不均質さを反映してザクロ石粒子が核形成・成長して、温度の上昇と伴に互いに化学組成が近づいたことを示唆している。しかし、同エクロジャイトが経験した変成温度は1000°C程であり、そのような昇温期の組成累帯構造が残っていることは、その加熱期間がかなり短かった可能性がある。
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