研究課題
昨年度に引き続き、本研究課題で立ち上げたレーザーラマン分光装置においてS/N比の高いラマンスペクトルを得るため、システムの改良を進めた。今回一番効果的であった改良点は、高開口数(1.30),高倍率(100倍)の油浸対物レンズの導入で、レーザースポットサイズを1ミクロン程度まで小さくしたことである。この結果、試料への照射レーザーパワーの密度が高まり、ラマンピークの強度を大幅に高めることができた。また、平滑度が小さい表面からの乱反射が原因と思われる迷光の影響が大きい試料に関しては、鏡面研磨を施すことで、さらにS/N比の低減が確認できた。現在、酸化物、ケイ酸塩鉱物、リン酸塩鉱物のラマンスペクトルを明瞭に得ることができている。それでも、ダイヤモンドアンビルセル中試料から十分なラマンピーク強度を得るには十分とはいえない状況である。今後、光学系へのピンホールスリットの導入等により、迷光をカットする工夫を行う。今年度は、岡山大地球研のマルチアンビル装置で超高圧合成した含水ケイ酸塩高圧相(hydrous ringwoodite, phase Eなど)を、上記のラマン分光システムにより相同定を行うと共に、OD,OH伸縮振動ピーク強度から、水素同位体の評価を行った。この結果、軽水素のコンタミネーションの低い、良質な重水素置換含水ケイ酸塩高圧相を確認することができ、J-PARCのBL19にて、これらの試料の粉末中性子回折実験を行った。現在、得られた中性子回折パターンのリートベルト解析から、これら含水高圧相の結晶構造における水素位置の決定を試みているところである。
3: やや遅れている
高開口数対物レンズの導入、試料表面の鏡面研磨等のラマン分光測定法の改良を行い、高空間分解能化とバックグラウンドの低減を図ることができたが、ダイヤモンドアンビル中の試料については、十分なS/N比のラマンスペクトルを得ることができていないのが現状である。さらに光学系の最適化を進めるという課題が残されている。ただし、これまでに改良したラマンシステムにより、高温高圧合成物のキャラクタリゼーションが可能となり、中性子回折実験用の試料評価、特に水素同位対比の見積もりに大きな貢献を果たしている。
現状の顕微ラマンシステムは、常圧試料のラマン分光測定を行うには十分なスペックに達したと言えるが、ダイヤモンドアンビルセル中の試料については、十分なラマンシグナルを取ることが困難である。最も大きな原因は、光学系が完全な共焦点系になっていないことであると考えられる。そこで、ピンホールスリットの導入による迷光の除去を含めた光学系の見直しと改良を行う必要がある。また、最近開発された長作動の高開口数対物レンズの導入も行い、本研究課題の最終目標であるダイヤモンドアンビルセル中でケイ酸塩試料その場観察ができるようにする。この対策には大きな費用は不要であるため、今年度の交付金で対応が可能である。
消耗品費:高温高圧実験では、ダイヤモンドアンビルセル、光学顕微鏡対物レンズ、試料加熱用ヒーターの消耗が大きいため、それぞれ予備の購入を予定している。旅費:研究成果を発信・議論するため、国内学会に年2回程度参加するのに用いる。
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doi:10.1088/1742-6596/377/1/012028