地球表層環境で進行している鉱物の溶解反応には生物起源の種々の有機分子が大きく関与していると考えられている。前年度のフロー式によるアモルファスシリカの溶解実験で、溶解速度に及ぼすタンパク質(BSA)の影響の定量的な評価がなされたが、その反応機構は明らはにされていない。そこで本年度は等電点の異なるヘテロ環化合物(piperidine (pK=11.12) > pyridine (pK=5.25) > pyridazine (pK=2.33))を用いてアモルファスシリカの溶解実験を行い、溶解速度に及ぼす影響の定量評価と反応機構の解析を行った。溶解実験は、pH6、5、4の3段階、バックグラウンドNaCl濃度:0.1mM、各ヘテロ環化合物:0.0、0.1、1.0、10.0 mMの条件で行った。実験の結果、タンパク質を用いた溶解実験と同様に、アモルファスシリカの溶解速度への影響は各ヘテロ環化合物の濃度上昇と溶液のpH低下に伴って増大することが確認された。また、piperidineを含む系ではヘテロ環化合物を含まない系と比較して9 ~17倍の溶解速度の増大、pyridineでは6~15倍、pyridazineでは3倍以下のわずかな増大が認められた。地球化学コード(ChemEQL)によるスペシエーション計算の結果、piperidineは全pH領域でプロトン化した陽イオン化学種として存在し、pyridine、pyridazineの順に陽イオン化学種濃度の著しい低下が認められた。なお、これらの陽イオン化学種濃度と溶解速度の増大量とはきわめて良好な相関を示し、アモルファスシリカ負電荷サイトへのヘテロ環化合物陽イオン化学種の表面錯体形成による溶解速度の増大が示唆された。なお、タンパク質による溶解速度の増大においても同様の反応機構が想定される。
|