研究概要 |
本年度は、白金族元素のうち特にパラジウム(Pd)について、二次イオン質量分析計(SIMS)による分析条件をほぼ確立することに成功した。一次イオンは酸素のマイナスイオン、ビームサイズは25~35ミクロン、分析可能濃度はppmレベルである。当初予定していた高質量分解能法では充分に妨害イオンを除去できないことが判明したため、エネルギーフィルター法に切り替えてパラジウム分析を試みた。その結果、40eVのエネルギーオフセットを適用することにより、過度にパラジウムの感度を低下させることなく妨害イオンを除去することに成功した。濃度較正は人工的にパラジウムを照射した試料(照射量が既知)を用いた。現在、パラジウムと同様の分析条件により他の親鉄元素がどの程度分析可能か検討中である。本年度は分析値の定量化に不可欠な標準試料の整備にも力を注いだ。鉄をベースにした三つの合成合金試料を標準試料として準備し、白金族元素を含む多くの親鉄性元素(Pt, Ir, Os, Ru, Rh, Pd, Mo, Ta, W, Re, Ni, Ag, Mn, Cr, Ti)について相対感度係数を決めるための基礎実験を進めている。さらに、より揮発性の高いZn, Ga, Ge, Snなどの分析も視野に入れて、多数の市販の合金試料を準備中である。実際の隕石試料の分析は未着手であるが、いくつかの始原的隕石や、金属成分を多く含んだCH/CBコンドライトなどの隕石試料を購入し、薄片作成をおこなっている。また、マーチソン隕石から回収したヒボナイト含有CAIの中に、超難揮発性の親鉄元素に富むミクロンサイズの金属粒子が含まれているのを発見した。これらのCAIはマグネシウム同位体比が大きな質量分別を示し、いわゆるFUN包有物の可能性がある。太陽系形成最初期の物質進化を探る上で貴重な試料であり、さまざまな角度から分析を進めつつある。
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