研究実績の概要 |
本年度は、昨年度までに作成した7種類の微量金属元素分析用標準試料(自作の合金)を用いて、SIMS(二次イオン質量分析法)による分析条件をさまざまにかえた実験をさらに進め、より精度の高い親鉄性元素定量分析の手法を確立した。とりわけ問題となっていたCs+ビームによる陰イオン分析(Au,Pt,Ir,Ruなど)における定量性の問題に関しては、(1)40ミクロン径程度の均一なビームの中心付近のみを分析することによりビームのエッジからのコンタミの影響を除去する、(2)基準にとる二次イオンとしてFe(-)のかわりにFe2(-)あるいはFe3(-)イオンを用いる、などの改良をおこない解決した。SIMSによる微量親鉄元素分析を実際の隕石試料に適用した。とくに、きわめて熱変成度が低いコンドライトであるYamato 81020(CO 3.05)中のメタル粒子の分析を精力的におこなった。その結果、(1)マトリックス中(コンドルールの外)に存在する大きなメタル粒子(直径100ミクロン程度)には白金族元素(Pt,Ir,Ru等)はほとんど存在しない、(2)コンドルールのオリビン結晶中にとりこまれたメタル粒子では、白金族元素の濃度に大きなバリエーションが見られ、中には非常に高い濃度の白金族元素を含む金属粒子が存在することがわかった。この結果は、コンドルールの前駆物質中に超難揮発性の金属微粒子が不均一に分布していたことを示唆する。超難揮発性金属微粒子が原始太陽近傍の高温領域で生成されたものならば、それらがコンドルール形成領域まで何らかのプロセスにより運ばれ、ばらまかれていたことを意味する。コンドルール中の個々の金属微粒子の組成が今回はじめて明らかになったことにより、親鉄性元素からみた原始太陽系星雲内での物質輸送やコンドルール形成過程について貴重な示唆が得られた。
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