研究課題/領域番号 |
23540572
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
三重野 哲 静岡大学, 理学部, 教授 (50173993)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プラズマ化学 / 衝突反応 / 炭素クラスター合成 / 惑星起源・進化 / タイタン / アミノ酸合成 / 炭素カプセル / 宇宙微粒子 |
研究概要 |
ターゲットの与圧室を開発した。直径10インチ、長さ255mmの金属製であり、1気圧の窒素を充填することができる。ターゲット部は、背面の液体窒素による冷却する事ができる。一方、側面には観測窓が付いており、衝突現象や発光現象を観察することができる。問題無く衝突実験に使用されている。 側面に高速度カメラを置き、衝突の高速現象を画像記録する事に成功した。また、ストリークカメラを用いて、C2とCN分子の強い発光を記録できた。さらに、黒体輻射観察により、ガスプルームの温度が約4500℃であることが分かった。 ポリカーボネート弾(金属弾)を約6.5km/sでヘキサン+鉄(氷+鉄)ターゲットに打ち込み、衝突反応を起こした。氷を用いる事により、高温プルームが小さくなり、低温となった。その結果、合成物質の様子が変わった。板状ポリマーやフレーク状ポリマーの合成が確認された。さらに、ポリマーと鉄が内包された炭素カプセル(直径約350 nm) を初めて見つけた。高温では、ポリマーが不安定になるので、内包されにくい。これは予測されなかった結果であり、新しい成果と思う。 合成物をレーザーイオン化質量分析器で分析した。その結果、種々の窒素付加炭素クラスターの存在を確認できた。低質量分子の分析において、アスパラギン酸 (M=133) とグルタミン酸 (M=147) に対応する信号を得る事ができた。これらのアミノ酸の合成を検証するためのクロスチェック測定が必要である。 このモデル実験を基に、タイタン表面にて、小惑星衝突により種々の炭素化合物が合成され、暗くて低温の地表に蓄積されていると考える事ができる。その一部は宇宙へ拡散したと推測できる。 今後、さらに分析時間を増やし、どのような合成物が作られるか研究を続ける必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速衝突現象の画像記録に成功した。分子発光スペクトルの観測に成功した。また、プルームのガス温度測定にも成功した。 氷を含むターゲットを用いると、プルームの温度が下がり、合成物の一部が異なった。多くの板状ポリマー、フレーク状ポリマーが含まれた。特に、ポリマーを含む炭素カプセルの合成は、世界で初めての成果と思う。 質量分析法により、窒素を含む種々の炭素化合物の合成が確認された。また、アミノ酸に対応する強い信号を得た。今後クロスチェックにより、これらの分子が混入物でなく、衝突合成された物であることを実証する必要がある。 以上、目標とする実験成果にかなりを達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
試料分析の時間が不十分であり、H24年度に、さらにTEM分析、質量分析を重点的に行い、どのような合成物が得られるか詳しく調べる計画である。FT-IR等の化学分析も平行して行う。 飛翔体として金属弾を用い、ヘキサン+氷+鉄ターゲットへ衝突させた時の合成物を分析する。通常、タイタンに衝突した飛翔体は無機物と考えられる。この条件に近い衝突実験を行う。この場合、合成試料が少ないので注意深い回収と分析を行う。 衝突プルームのイオン密度を測定する。また、ターゲットの組成を変えた時の合成物の変化を調べる。 衝突条件を増やし、分析試料を増やす事により、衝突と合成反応の関係を明らかにする。実験・分析を繰り返し、信頼有るデータを得る。そして、タイタン表面衝突反応で発生する合成物を明らかにして行く。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度配布予定額は900千円である。試料を溶液に分散させて分析するため、超音波ホモジナイザー(約450千円)の導入予定。試料の精密なTEM分析のため、東京での立ち会い分析を2回行う予定。その費用として約230千円が必要。秋に横浜で行われる物理学会にて発表予定。役30千円の旅費を使う。実験用金属材料、分析用薬品など消耗品購入のため、残りの190千円を使用予定。
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