研究課題/領域番号 |
23540574
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
伊藤 清一 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (70335719)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 非中性プラズマ / クーロン結晶 / ナノ・イオンビーム |
研究概要 |
我々は線形ポールトラップ中にレーザー冷却法を用いて生成した紐状クーロン結晶をイオン源とすることで,ナノ・イオンビームを生成する方法を提案してきた.これまでに,結晶化したイオン群をトラップから引き出しその軸方向の構造を実験的に計測することに成功している.本課題では,引き出したイオン群の断面方向分布および,拡がり角を実際に測定することで,クーロン結晶からのナノ・イオンビーム生成の可能性を実験的に検証することを目的とする.本年度は新たな真空システムを立ち上げ,LIF観測システムの改良及びエミッタンス測定システムの整備を部分的に行った. 上述の様に,我々は既にクーロン結晶化とその引き出しに成功している.当初計画では実験装置の大部分は現有の設備をほぼそのまま使用する予定であった.しかし,申請予算の大部分を占めていたナノ・ポジショナーに新たに廉価版がラインナップされたことで予算を大幅に縮小出来たこと,また今後の実験に対する適用性も考慮し,新たに真空容器を製作した. その一番の特徴は,LIF観測系のアライメント調整の容易さである.LIF法はクーロン結晶化を確認し,イオンビームの初期状態を計測する重要な観測手法である.これまではLIFの捕集率と空間分解能を上げるために真空容器内の対物レンズと大気側の接眼レンズで構成されるレンズ系によりLIF像をICCDカメラに転送・拡大・結像していた.しかし,レンズが真空側と大気側に独立に設置してあったためアライメントの精度が良くなく,結像特性は設計値の1/20程度と非常に悪かった.今回,新たに製作した真空容器では真空窓をトラップに極限まで近づけることで,レンズ系を全て大気中に設置することができるようになった.このため,レンズ系を一体化することができ,調整の手間がなくなると共に,その分解能を大幅に向上することに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では,H23年度中にLIF観測システムの改良,及びエミッタンス測定システムの整備を行なう予定であった.前者については充分に達成出来たと考えている.一方,後者についてはその主要部品であるナノポジショナーの納期が当初予定より大幅に遅れ,実際に納品されたのが二月末日であった.そのため単体としての動作確認は行ったが,システムとしてインストールするまでには至っていない.従って,当初予定よりはやや遅れていると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は,エミッタンス測定システムの設置と主排気系の切り替えを行ない,クーロン結晶のエミッタンス測定実験に入る. エミッタンスの正確な測定のためには装置の振動を極力少なくする必要がある.振動の発生源として真空排気に用いるターボ分子ポンプやロータリーポンプ(RP)の振動が考えられる.これらを取り除くために主排気系をイオンポンプへと変更する.イオンポンプは可動部がなく,またRPを必要としないので,振動を完全になくすことが出来る.更に,イオンポンプは電源を切っても暫く真空を維持できる.従って,電源を切って実験を行うことで,排気系からの擾乱が全くない状態で実験を行うことも可能である.当初予定では,エミッタンス測定系とイオンポンプを時期をずらして導入する予定であったが,前述の理由により,計画に若干の遅れがあることから,これらの導入を同時に行うことにする. システム変更後に本格的な実験に入る.数値計算によりクーロン結晶引き出し時にクーロン相互作用に起因するエミッタンスの増加が生じる事が分かっている.これを抑制するためにクーロン結晶に含まれるイオン数,引き出し電圧やその印加方法,閉じ込め場の形状など,引き出し条件の最適化を行う.ただし,エミッタンス計測の精度を上げるためには実験を多数回繰り返す必要があり,引き出し条件探索の全てを実験のみで行うのは現実的ではない.そこで,数値実験によりある程度の「当たり」を付けておき,その近辺のデータを集中的に取得する.数値実験はイオンポンプ・エミッタンス測定系の導入と平行して行う. 順調に行けば,12月位までに一通りのデータを揃えられるであろう.その後,得られた結果をもとに理論的な解析や数値実験と比較しつつ,詰めの実験を行なう.2月を目処に詰めの実験や解析を終える.この段階で得られた成果をまとめ,しかる場所に投稿する予定である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
上述のように,エミッタンスの正確な測定のためには振動などのメカニカルノイズ等を極力減らす必要がある.現状では振動の最大の発生源はターボ分子ポンプ,ロータリーポンプなど機械的な回転部分がある真空ポンプ系であるが,クーロン結晶の生成には超高真空が必要なため実験中にこれを停止することは不可能である.そこで,主排気ポンプを回転部が無くまたロータリーポンプを必要としないイオンポンプへと変更する,今年度の経費の大部分(80%-90万円)はこの購入に充てる.残りは研究を効率的に進めるための研究打ち合わせ等の旅費や,消耗品の購入に充てる予定である.
|