研究課題/領域番号 |
23540575
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大原 渡 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (80312601)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | プラズマ支援触媒イオン化法 / 水素ペアイオン / 負イオン / 中性粒子入射加熱 |
研究概要 |
セシウムフリー負イオン源開発の一環で,プラズマ支援触媒イオン化法の機構解明を行った.直流アーク放電により水素プラズマを生成して,負電圧が印加されたNi多孔体触媒に正イオンを照射した.照射裏面より正負イオンが生成され,イオン性プラズマが生成される.ラングミュアプローブの正負イオン飽和電流測定によって,正負イオン生成量の正イオン照射条件依存性を明らかにしようとした.結果として,プラズマの準中性が満たされるように,生成された正負イオンフラックスがシースによって自己制御される.そのため,プローブ飽和電流測定は必ずしもイオン生成量を反映していないことが明らかになった.そこで触媒表面に電界を印加して,正イオンまたは負イオンを選択的に触媒表面から引出して,イオン電流の測定を行った.イオンのエネルギー分析を行ったところ,照射された正イオンの一部が多孔体触媒を透過した正イオンと,触媒表面から生成された正負イオンの存在が明らかになった.これらイオンの持つエネルギーは異なることを利用して,各イオン電流を分離計測できるようになった.正負イオンの生成バランスは正イオン照射エネルギーに依存しており,正負イオンの生成量は正イオン照射電流密度に依存することが明らかになった. 触媒材質が正負イオン生成に及ぼす影響について調べた.触媒能はバルクではなく,表面材質が重要である.マグネトロンスパッタリングによりZr, Ti, Ta, Niの薄膜をNi多孔体触媒の両面に成膜した.同様に負イオン生成量を測定したところ,生成量はNi > Zr > Ta ~ Tiであることが明らかになった.Niを除けば,触媒金属の電気陰性度が低いほど負イオン生成量は多い傾向であることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の実施計画項目は,(1) ターゲット触媒材質表面を持つ多孔体の製作,(2) 平板形多孔体によるプラズマ支援触媒イオン化機構の解明,(3) 触媒表面の不純物除去・活性化である. (1)については,Zr, Ti, Ta, Niの表面を持つ多孔体を製作して,それらの正負イオン生成特性を明らかにした.(2)については,計測手法の進展によりイオン成分,イオンエネルギー,各イオンの分離計測が可能となったことから,イオン化機構の一端が明らかになった.(3)については,装置の整備を行って実現できるようになった.具体的には,高真空下で水素ガスを導入した環境(10^-2 Pa)において,800℃程度4時間以上で多孔体触媒の加熱処理を行い,不純物除去と触媒活性化を行えるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実施計画に記述している通り,円筒形多孔体触媒を用いた場合の負イオン生成特性を明らかする.平板形とは異なり照射正イオンの入射角が変化し,入射角度依存性が生じる可能性がある.また,触媒表面から電界によって正負イオンを引き出すのではなく,円筒内部のイオン性プラズマから負イオンを引き出すことになり,引出特性は大きく異なることが予想される.脱離イオン化による正負イオン生成に必要なエネルギーは正イオン照射によって与えているが,そのエネルギー伝達機構が不明である.特に,エネルギーは触媒金属バルクを伝わるのか,表面に沿って伝わるのかを明らかにするために,触媒形状を変化させた比較実験を行う. 平成23年度において触媒材質の効果について解明を行ったが,一連の触媒準備・測定には長い時間がかかるため,再現性の確認実験を行っていない.また,試みた触媒材質の種類が限定されている.これらのことから触媒金属の購入費用が計画に比べて下回った.実験結果の信頼性向上のためには,再実験が必要である.また,触媒材質の物性値依存性を明らかにするためには,試みる触媒材質の種類を増やす必要がある.
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次年度の研究費の使用計画 |
実験装置の真空部品,イオン引出電極の高電圧印加・測定回路の整備や,多孔体触媒,貴金属を含むターゲット触媒金属材料を購入して,触媒材質依存性の解明に向けて使用する.学会・研究会において研究成果を積極的に発表するために,研究代表者だけでなく研究協力者の旅費を必要としている.また,研究成果を雑誌へ投稿する費用も必要である.
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