研究課題/領域番号 |
23540575
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大原 渡 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (80312601)
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キーワード | プラズマ支援触媒イオン化法 / 水素負イオン / 触媒 / 中性粒子入射加熱 |
研究概要 |
セシウムフリー負イオン源開発の一環で,プラズマ支援触媒イオン化法の機構解明を行った.放電により水素プラズマを生成して,負電圧が印加された触媒に対して正イオンを加速・照射させた.照射裏面より正負イオンが生成され,電場による引出測定を行った.負イオン生成に最適なプラズマ照射条件,触媒構造,触媒材質などについて調べた. (1) 触媒材質の効果: 触媒形状が平板形の多孔体またはグリッドを用いることによって,比表面積の違いから触媒を通過する正イオンとの触媒表面相互作用の頻度を変化させた結果,比表面積が大きいほど負イオン生成量は増加することが明らかになった.また,触媒材質の依存性を調べたところ,仕事関数及び電気陰性度が低いほど負イオン/正イオン生成比率が大きくなることが明らかになった. (2) 円筒形触媒: 円筒形多孔体触媒を用いて,無磁場と有磁場それぞれについて正負イオン生成特性を明らかにした.触媒壁を通過してではなく,円筒口から侵入した通過正イオンが円筒内壁に衝突することによって,大部分の正負イオンは生成されることが明らかになった.また,円筒内部空間の空間電荷により電位構造が自発的に形成されていると思われ,正イオンの侵入が抑制されて生成される正負イオン電流は大幅に減少することが明らかになった.長い円筒形状は正負イオンの生成に不利なので,触媒形状は再検討を要することが明らかになった. (3) 負イオンの生成機構解明: 計画当初は負イオンの生成機構は不明であったが,高速正イオンが触媒表面に吸着する水素原子に衝突して生成される場合(脱離イオン化)と,低速正イオンが触媒表面から電子を受け取って生成される場合(共鳴電子遷移)の2通りある可能性が見えてきた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正イオンの照射電流密度と照射エネルギーを制御して触媒に照射して,生成された正負イオン電流密度の各種パラメータ依存性を明らかにして,プラズマ支援触媒イオン化機構を明らかにすることを目的としている.平成24年度当初の実施計画項目は,(1)円筒形多孔体触媒を用いた負イオン生成,(2)正イオンパルス照射などによる負イオン生成機構の解明である. (1)については,異なる長さの円筒5種類を用いて正負イオンの引出しを行った.円筒形触媒を用いると正負イオン生成量が大幅に減少することを明らかにした.これは期待に反しているが,新たな知見が得られたといえる. (2)については,パルス照射を実施しなくても,負イオン生成機構の解明が進展した.イオンエネルギー分析が詳細に行えるようになったことに伴い,当初想定していなかった2種類の負イオン生成機構の可能性を見出した.なお,部分的ではあるが,イオンの質量分析も実施できるようになった.生成される正イオンは,原子状だけでなく分子状の正イオンが多く生成されることも明らかになった.これも当初想定していなかった新たな知見である. 以上のように,想定していた通りの結果が得られたわけではないが,次の新たな展開につながる知見が得られたため,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度当初の実施計画においては,多数の円筒形触媒を束ねて用いることにより,総負イオン電流を高めることを狙っていた.しかし,円筒形触媒では負イオン生成効率が低いことが明らかになった.負イオン電流を増加させるためには,2通りのアプローチが考えられる.(a)負イオン生成効率のよい触媒材質を用いることと,(b)触媒を通過する正イオン電流密度を増加させること,である. (a)の負イオン生成効率のよい触媒材質について,電気陰性度と仕事関数は負イオン生成に効くことが明らかになりつつある.しかし,調査した材質が数少なく,更にさまざまな材質でイオン生成実験を行い,負イオン生成に最適な材質の探索を続ける予定である. (b)の通過正イオン電流密度を増加させて触媒表面と作用させるためには,正イオン通過孔径と触媒表面積の間には適切な関係があると予測される.具体的には,触媒グリッドの最適なメッシュ数を探索して,負イオン電流密度を高めることである.また,負イオンビームで必要とされる引出孔径(直径13 mm程度)のまま触媒厚を厚くして,疑似的に短円筒構造にして内側表面積を稼ぎつつ,円筒内部に電位構造形成されない程度に長さを短くするということを計画している.円筒内側面に正イオンが衝突する際に,その入射角が負イオン生成に効くと思われる.正イオンの入射角の制御は容易ではないので,孔入口付近に角度を変化させたテーパーをつけることによって,正イオンの触媒面への入射角を変化させて,負イオンの生成効率について調べる予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度において,円筒形多孔体触媒を用いて負イオン生成を狙っていたが,円筒形触媒は負イオン生成に不利であることが明らかになった.そのため,触媒構造を見直すことが余儀なくされ,多円筒形触媒電極等の新規製作等が不要になった.また,イオンエネルギー分析の進展があり,正負イオン生成機構の解明が進んだため,正イオンパルス照射して過渡的応答を測定する必要がなくなった.以上の予定していた電極製作費やパルス電圧印加電源などが不要となったために,物品費に残額が発生した. 平成25年度は前年度を踏まえて,実験装置の真空部品,イオン引出電極の高電圧印加・測定回路の整備や,多孔体触媒,貴金属を含むターゲット触媒金属材料を購入して,触媒材質依存性の解明に向けて使用する.円筒ではない構造の触媒金属を試作して,負イオン生成特性を明らかにしていきたい.学会・研究会において研究成果を積極的に発表するために,研究代表者だけでなく研究協力者の旅費を必要としている.また,研究成果を雑誌へ投稿する費用も必要である.
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