研究課題/領域番号 |
23540583
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
三浦 英昭 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (40280599)
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研究分担者 |
荒木 圭典 岡山理科大学, 工学部, 教授 (90299181)
伊藤 淳 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (70413987)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 拡張MHD / 乱流 / スペクトル / 不安定性 / Hall項 / ジャイロ粘性 |
研究実績の概要 |
拡張MHDモデルの一つ、Hall MHD方程式による乱流シミュレーションを実施し、運動エネルギー・磁気エネルギースペクトルと渦構造、電流密度構造の関係を調べた。運動エネルギースペクトルはHall項の影響を大きく受けないにも関わらず、渦度(速度場の回転)の空間構造は、Hall項の影響で層状構造から管状構造へと遷移する事が示された。他方、磁気エネルギースペクトルはHall項の影響で高波数成分が励起され、この結果、電流密度(磁場の回転)はHall項を導入しない場合に比べて細片化するが、層状構造は依然として維持されることが分かった。ローパスフィルターを用いた解析から、渦構造の遷移はHall項が示す長さスケール(イオン表皮長)よりも大きいスケールまで及び、Hall項の導入がイオン表皮長以下のスケールを変えるだけではなく、より大きいスケールまで変化を及ぼすことが示された。 また、MHDモデルへの拡張効果を調べるため、2次元Rayleigh-Taylor(RT)不安定性の数値シミュレーションを実施した。Hall項を含む2流体効果とジャイロ粘性効果が両方含まれる場合には、その一方のみを含む場合に比べて、高波数の不安定モードの成長を強く抑制する効果があることが示された。他方、この抑制の結果として、高波数帯には二次的なKelvin-Helmholtz不安定性が発生し得ることが確認された。この二次不安定性は、RT不安定性の成長が生成する速度差をジャイロ粘性項が強化する事によって発生し得る事が示された。これらのシミュレーションから、2流体効果とジャイロ粘性効果が含まれる乱流シミュレーションでは、高波数不安定モードの成長が抑止されるが、二次不安定性の成長を経た乱流段階では、MHDモデルに比べて高い波数領域まで及ぶ広範なスペクトル分布をもつことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
非圧縮性Hall MHDモデルの研究に対する達成度は100%を越えたと考える。即ち、当初目標であるスペクトル構造について一定の所見とモデル化への道筋が得られたことから、本来達成すべきと考えていた目標は達成した。この意味で達成度は100%である。更に、Hall MHDモデルの導入による空間構造の変化について、渦構造遷移機構を発見した。これは当初目標設定時には想定しなかった部分であり、数値化する事は困難であるが、達成度が100%を越えた事には間違いがない。 他方、ジャイロ粘性を含む拡張MHD乱流の達成の観点からは、達成度は50%程度である。達成できたのは、乱流構造の基本となる不安定性への拡張効果の影響である。しかし、3次元シミュレーションによる拡張MHD乱流のスペクトル構造の解明には至らなかった。 目標不達成の主要な要因は2つある。1つには、非圧縮性Hall MHDモデルにおける構造遷移の発見が重要であることから、この解析に時間を配分した結果、ジャイロ粘性を加えた場合のシミュレーションの実施が遅れたためである。2つは、3次元拡張MHD乱流の前段階として執り行った2次元シミュレーションから、ジャイロ粘性を含む乱流シミュレーションには当初想定以上に数値解像度を要求されることが明らかになったため、数値シミュレーション手法の見直しが必要になったためである。 上記2点を勘案し、本研究課題の進捗はやや遅れていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を1年間延長し、Hall MHD乱流に関する圧縮性およびジャイロ粘性効果の影響を調べる。圧縮性Hall MHD乱流についてはシミュレーションを実施済であり、研究成果のとりまとめ及び発表を準備している段階である。 前年度からの引き継ぎ課題となっているのは、2流体効果およびジャイロ粘性を含む場合の乱流のスペクトル構造の解明である。これまでの研究から、ジャイロ粘性が速度の剪断幅を狭くする方向に力を及ぼすため、MHD乱流、Hall MHD乱流に比べて高い数値解像度を要求されることが分かっている。経験的には、数値的に十分に収束したシミュレーションを行うには、最大波数として電子表皮長の2倍程度までの解像度を要求するため、単に数値シミュレーションを実施するのが困難なだけではなく、電子運動の効果を無視した物理モデルの妥当性が問題になる。このため、電子運動よりも十分に大きな(しかしイオン表皮長よりは小さい)スケールにおいて電子運動を数値的にモデル化する必要がある。このような数値モデルの原型を構築、数値シミュレーションによって検証を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度が当初計画における最終年度であり、この段階で乱流スペクトルに対する一様な背景磁場、圧縮性、Hall効果、ジャイロ粘性効果の影響等を報告する予定であった。しかし、平成25年度から26年度にかけて、Hall効果による渦構造の構造遷移現象を発見した。この発見は当初計画時に想定していなかったが、本研究課題の趣旨に照らし合わせて重要な発見であったため、この構造解析および報告(論文出版を含む)について時間を費やした結果、研究に遅延が発生した。このため、乱流への圧縮性の影響等のの研究成果発表は平成27年度に実施する事になった。
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次年度使用額の使用計画 |
乱流スペクトルに対する一様な背景磁場、圧縮性、Hall効果、ジャイロ粘性効果の影響等に関する研究成果発表を、国際会議で行う。この国際会議として、the 15th European Turbulence Conference (Delft, Netherland, 平成27年8月)あるいはthe 24th International Conference on Numerical Simulation of Plasmas (Golden, United States of America, 平成27年8月)等を想定する。また、上記会議と連動して、米国内の研究者を訪問し、研究に関する議論を行う。
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