研究概要 |
今年度は本課題研究の最終年度である。これまでの研究成果をもとに、以下の2つの研究項目に取り組んだ。1)誘起環電流に対する熱浴効果の解明。超高速光スイッチングデバイス設計する際重要となる。2)コヒーレントπ電子回転と誘起環電流に対する分子内振動の寄与の解明。1)については、熱浴モードとπ電子運動との相互作用が瞬間的に起こるというマルコフ近似は超高速π電子運動の場合成立しない。有限の相互作用をするという非マルコフ的取り扱いをしなければならない。熱浴モードに対してDrudeモデルを用いて、非マルコフ条件下でのコヒーレント環電流の時間依存性を密度行列法により定式化し、代表的キラル芳香族分子(P)-2,2’-ビフェノールを取り上げ、熱浴とπ電子との相互作用の大きさと熱浴温度をパラメータとして環電流の時間依存性のシミュレーションを行った。これにより温度上昇するにつれてマルコフ近似からのずれが大きく、非マルコフの取り扱いが重要になってくることが明らかになった。さらに、熱浴モードとπ電子の初期相関(コヒーレンス)が非マルコフ的取り扱いに重要な因子であることが初めて明らかにされた。(その結果はアメリカ物理化学会誌 Journal of Chemical Physics, Vol. 139 にすでに報告された。本報告11研究発表参照)。2)について、2つのベンゼン環をもつ(P)-2,2’-ビフェノールとベンゼンのπ電子回転の二つの例をとり、断熱近似のもとで振動効果を解明した。前者では2つのベンゼン環が関与する低振動面外振動モードがコヒーレント環電流の時間依存性に寄与するが、後者ベンゼンでは全ての分子振動モードはコヒーレント環電流に寄与しないことが示され、その理由が明らかにされた。その成果は国際誌 Chemical Physics, Femtosecond Chemistry 特集号に受理された。
|