超音速分子線発生装置で生成した気相クラスターをイオン化すると、種々の新奇イオン種を効率よく発生させることができる。その際、質量分析法と赤外分光法とを結合して新開発した物質構造解析手法を活用して、反応中間体イオンに相当する新奇イオン種の非古典的結合構造を分光解析し、量子化学理論計算手法改良に資する実験的指針を提供する。また、その反応中間体イオン種の特異構造に関係する振動励起・電子励起を利用した新しい光誘起反応制御法を開拓する。 本年度の主な成果は以下の通りである。 1.ジエチルエーテル(DEE)正イオンの赤外分光とCH結合極性の内部回転依存 化学反応の立体特異性を化合物の幾何構造に基づいて分子レベルで理解することは、反応制御・反応機構を解明するための重要な視点である。その一つとして、飽和結合を有する化学物質の単結合まわりの内部回転による構造異性体による物性や反応性の違いは、反応機構や反応速度の分子論的理解にとって重要な情報である♂本研究では、ジエチルエーテル(DEE)単量体正イオンの赤外スペクトルの観測を行い、DEE正イオンのエチル基について酸性度変化に基づく特異な現象を観測した。その現象を量子化学理論計算解析して、DEE正イオン状態におけるCH基のプロトン供与性(酸性度に相当)がCH基内部回転の影響を著しく受けることを初めて明らかにした。 2.硫化ジエチルエーテル正イオンの赤外分光解析 上記の結果と比較するため、ジエチルエーテルの酸素を硫黄で置換した硫化ジエチル(DES)正イオンの赤外分光解析を行って、量子化学理論解析を行った。その結果、DEEとは異なってメチル基回転によるプロトン供与性変化は小さいことが判明した。その結果をDEEとDESの非共有電子軌道とシグマ軌道との相互作用の相違に基づいて解析した。 上記成果は平成24年9月に開催された第6回分子科学討論会で発表した。
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