本研究は、ZnGeP2結晶中での差周波発生を利用した新たな中赤外領域の高強度レーザー光源を用い、これまでは困難であった超音速ジェット中のクラスターに対する5~12 μmの骨格振動領域の赤外分光を利用して基本的な反応素過程について気相孤立状態のクラスター構造から明らかにすることを目的としている。 本年度は超音速ジェット中に生成したナフトール‐アンモニアクラスターにイオン化検出赤外‐紫外、紫外‐赤外二重共鳴法を適用し、電子基底状態および励起状態の10-2.5 μmにおける赤外スペクトルの測定をn=3まで赤外スペクトルの測定を終了した。C‐O一重結合に由来する吸収バンドを明確に検出でき、これまでOH、NH伸縮振動領域の赤外スペクトルでは明らかではなかった電子励起状態における構造を初めて明確に結論できた。その結果、このサイズではプロトン移動反応が生じないことを確認し、n=3からプロトン移動が生じるという報告が誤りであることを明らかにした。 一方、同時に進めていた密度汎関数法を利用した量子化学計算による安定構造探索から、最安定構造としてプロトン移動体が得られるサイズはn=3であるが、光励起の際のフランクコンドン原理による構造変化に対する制限のため、光励起によりプロトン移動が生じるサイズは実際にはn>5となることが明らかになった。今後の課題として、実験の赤外スペクトルからこの理論予測を確認することが挙げられる。
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