研究課題
本研究では,通常の構造解析や分光法で得られない構造情報,とりわけ分子間相互作用に関する知見を高精度熱測定により実験的に得ることを目的としている.そのために重水素化試料を用い,それをプローブとする.部分重水素化により対称性が低下したメタンやメチル基は一般に,凝縮相では回転的振動の基底状態を複数もつことになり,その乱れ(余分のエントロピー)は極低温で秩序化することが我々の研究によって明らかになってきた.その基底状態の分裂様式は,分子間ポテンシャルの対称性や強さに関する豊富な情報を含んでいる.バルク固体でほぼ確立できた以上の方法論を単分子吸着膜に展開することにより,精密熱測定が構造研究に大きく貢献できる局面を切り拓くのが本研究の具体的な目標である.平成24年度は,これまでバルク固体について熱測定を済ませているメタンおよび6種のメチル基を有する化合物[ヨウ化メチル,メタノール,トルエン,4-メチルピリジン,2,6-ジクロロトルエン,2,6-ジブロモトルエン]について,一連の重水素置換化合物がグラファイト表面に吸着した単分子膜を対象として,その極低温熱容量の精密測定を完成させることであった.結果として,当初予定した物質それぞれについて,4種の同位体置換体(メタンについては5種)すべての単分子膜について0.6~20 Kの温度域で高精度熱容量測定を行うことに成功した.以上の実験を可能にしたのは,測定系の改善,とりわけ温度測定にかかるノイズの低減と試料の吸着法の改善であった.後者については,蒸気からの吸着と液体からの吸着を試みたことによるものである.
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の報告書では達成度を「やや遅れている」とした.しかし,今年度は実験手法について種々の改善を行うことができ,これで当初の目標が達成できる見通しが立った.全体として,研究計画は順調に推移している.
今後は,得られた実験結果を詳細に解析する.一連の物質について研究を行ったので,系統的な法則が見いだせることを期待している.それらの結果は,国際会議をはじめとする各種研究発表,論文執筆などを通して公表する予定である.
次年度は,研究発表にかかる費用,とりわけ国際会議への出席にかかる費用として研究費を使用する予定である.
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (6件)
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