研究課題/領域番号 |
23550019
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
海野 雅司 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50255428)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 国際情報交流(米国) / 分子分光学 / 生物物理学 / 振動分光 / 光受容タンパク質 |
研究概要 |
本研究の大きな目的は申請者らが開発してきたラマン円偏光二色性分光装置を高感度化し、これをさまざまな系に応用してその有用性を実証することである。本手法は円二色性分光(いわゆるCD)のラマン分光版で、通常のラマン分光に比べて極めて多くの構造情報を提供する。本研究者はJSTさきがけ研究の支援のもとラマン円偏光二色性分光装置を開発してきたが、本研究ではさまざまな試料、特に生体分子への応用を可能とする近赤外光励起のラマン円偏光二色性分光に焦点をあて、新しい構造解析手段を開拓する。 平成23年度においては装置の高感度化に向けて、散乱円偏光方式の装置開発に向けての装置設計を行った。またいくつかの光受容タンパク質に応用した。具体的にはバクテリオロドプシンなどのレチナールタンパク質、4-ヒドロキシ桂皮酸を発色団として有するイエロープロテイン(Photoactive Yellow Protein)の変異体や発色団アナログの測定を行った。その結果、発色団の捻れ構造に関する微細な情報が得られることが明らかとなってきた。最近、発色団分子の捻れなどの構造的な歪みが酵素活性等に重要であることを示唆する研究が報告されてきており、本手法はタンパク質の機能を分子構造レベルで解明するうえで極めて重要な情報を与える可能性がある。 また近赤外励起ラマン円偏光二色性分光と平行して、可視光励起ラマン円偏光二色性分光装置を用いた研究も行った。その結果、DNA結合タンパク質や環状ジペプチドのラマン円偏光二色性スペクトルを得ることに成功した。得られた結果から主鎖ペプチド骨格の二次構造などを明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は近赤外励起ラマン円偏光二色性分光装置の高感度化と光受容タンパク質など色素分子をもった生体関連試料への応用を計画していた。装置の高感度化に関してはその装置設計を概ね終了することができた。また応用研究に関してはイエロープロテインの変異体やアナログ発色団を再構成した試料への応用等も順調に進んだ。これらの実績により、おおむね順調であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度はさまざまな試料への応用研究に本格的に取り組む。研究対象としては、本申請者が今まで研究対象としてきた光受容タンパク質とヘムタンパク質に注目する。これらの試料は可視光を吸収する発色団を含むため、可視光励起のラマン円偏光二色性分光では測定できなかった代表例であり、発色団やその周辺の構造情報やタンパク部分の構造に関する知見が期待できる。現在までのところ、4-ヒドロキシ桂皮酸を発色団とする光センサーのイエロープロテインについてラマン円偏光二色性スペクトルの測定に成功しており量子化学計算による解析から発色団の平面構造からの歪みや発色団周りのキラリティー(アミノ酸残基の空間配置)に関する情報が得られることが分かってきた。イエロープロテイン以外の研究対象としてはレチナールを発色団とする光駆動プロトンポンプのバクテリオロドプシンやセンサーのセンソリーロドプシンII、フラビンを発色団とする光センサータンパク質(BLUFタンパク質など)、ヘムを有するミオグロビンやシトクロムcなどである。これらの試料は連携研究者の方々(松山大学・加茂直樹 教授、東京工業大学・増田真二 准教授)から提供して頂く予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度の次の内容で研究費を使用する予定である。まず試料の調製などに必要な生化学関連機器や消耗品の購入、装置改良に必要な光学部品類の購入、研究成果を発表するための学会参加のための旅費や、研究打合せのための旅費などである。
|