研究の目的は自由エネルギー面上の酵素反応のメカニズムを解析する手法を提案することであった。目的のために必要となる自由エネルギー面上の構造変位のための自由エネルギー勾配法は期間の前半にプログラムに並列版として実装することに成功した。さらに二年目には自由エネルギー勾配を用いた分子動力学シミュレーションを実施することが可能であることをアラニンジペプチド分子について示すことに成功した。しかしながら、化学反応を得るための自由エネルギー面上の反応経路最適化シミュレーションに多大の計算時間を要し、当初に計画した計算時間内に酵素反応の解析を完了することは長周期ゆらぎもあり困難となった。そこで、以後の研究へ展開するため高速化の手法に着手し最終年度に開発に成功した。 幸い自由エネルギー勾配法では電荷応答核を作成することで計算の高速化が可能である。そこで、反応中心にかかる外場の静電ポテンシャルに加えて電場を求め、もっとも計算時間がかかる部分を近似計算することで同等の計算精度を得ることができ、大幅な時間短縮につなげることが可能であることを確認した。近似計算の定式化と検証を最終年度に実施した。 最終年度に定式化した結果は以下の特徴をもつ。環境として存在する周辺分子は反応中心に静電ポテンシャルと電場を生じる。この静電ポテンシャルの変化は分子内の電荷移動に大きく寄与し、電場の変化は分子内の電荷移動のほかに反応中心の原子上に誘起双極子を生じる。これらを分割して定式化した結果、計算時間が最も必要であった量子化が計算を省略しても、環境の変化に対するエネルギー変化に加えて、原子にかかる力もシミュレーションの最中にわたり再現できることを確認した。この研究成果は、酵素反応のメカニズムの解析を実用可能にする。近々に、いくつかの酵素系に適用し、メカニズムを解明する計画につなげている。
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