研究課題/領域番号 |
23550022
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中島 聡 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 准教授 (80263234)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | チトクローム酸化酵素 / 赤外分光 / プロトンポンプ |
研究概要 |
チトクロム c 酸化酵素(CcO)はミトコンドリア内膜に存在する呼吸鎖末端酵素で、酸素を水にまで還元することでプロトンを膜間輸送しプロトン勾配をつくる機能をもつ。ごく最近申請者らは 新規にフェムト秒レーザの超高輝度の赤外パルスを光源として、分散型でマルチチャンネル検出をおこなう赤外分光システムを開発し、水溶液中での蛋白質反応を時間分解測定することに成功した。そこでこのシステムを用いて CcO の酸素還元反応を測定し、それと共役した(この酵素の機能である)プロトンポンプ反応における蛋白質構造ダイナミクスを調べてその詳細の解明を試みた。また、同時に赤外分光と相補的な手段である時間分解共鳴ラマン分光法を用いてCcOのCO光解離反応を測定してヘム近傍の反応の素過程に相当する時間での反応のダイナミクスを調べた。 まず赤外吸収スペクトルであるが反応は酸素飽和した緩衝溶液と CO 型の CcO を混合した後、レーザパルスで CO の光解離を起こして酸素との反応を開始させ、遅延時間をおいた赤外パルス光で構造ダイナミクスを観測する。このためには、蛋白質溶液をフローさせなければならず、赤外で観測可能なフロ ーシステムを開発する必要がある。可視領域の場合と異なり、赤外領域でのフローセルの作製はいくつかの困難な問題点があったが、HPLCの技術などを応用して自家製で目的とする条件を満たすものを完成させた。このセルでは50um厚で、1kHzの繰り返しに耐えうる流速(1ml/min)で、非常に粘度の高い高濃度の蛋白溶液(~500uM)をフルーさせることに成功した。またこのセルの前段に酸素を供給しうる肺を設置することも行い、かつ再現よく繰り返し測定できる系を設計した。時間分解共鳴ラマン測定では初期過程におけるヘム側鎖や配位子の挙動に興味深い点を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の目的としては水溶液中での蛋白質反応を時間分解測定することに成功した赤外分光測定システムを用いて CcO の酸素還元反応を測定し、それと共役した(この酵素の機能である)プロトンポンプ反応における蛋白質構造ダイナミクスを調べてその詳細の解明を目指すことである。初年度は(蛋白質溶液をフローさせなければならないため)赤外で観測可能なフローシステムを開発する必要ことを研究目的にあげていたがこれはおおむね達成されたと考える。目標としたセルでは50um厚で、1kHzの繰り返しに耐えうる流速(1ml/min)で、非常に粘度の高い高濃度の蛋白溶液(~500uM)をフルーさせることに成功したが、このような赤外に特化し条件をクリアーしたものは未だ報告がなく、我々が初めて完成させた物である。また、時間分解共鳴ラマン分光法の測定も同時並行して行い、あらたな中間体や反応メカニズム(特にその素過程)についての知見を得ており、最終目標のプロトンポンプ機能の解明にむけて研究が佳境に入りつつある。
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今後の研究の推進方策 |
完成した赤外分光用セルを用いて、まず3種類の蛋白質の部位に注目して時間分解赤外分光測定を行う。 カルボキシル基をもつ水素結合に関与している Asp やGlu などのアミノ酸残基である。特に Asp51(D51)はプロトン ポンプ経路の末端に存在していて、プロトンのくみ出しに関 与していると考えられている。構造解析からこの残基は酸化 還元状態や配位子の脱着により大きく構造変化していることがわかっており、反応経路中の電子移動過程や酸 素活性化過程におけるプロトンの脱着に注目して測定する。 次に主鎖ヘリックスの構造ダイナミクスである。これは主に酸化還元状態に対応して helix X よばれるヘリックスが、きわめて局所的に構造変化することがしられている。しかし申請者らの赤外・ラマン時間分解測定結果からは、配位子の脱着にともな い、機械的な構造変化でなくきわめて複雑でかつ heme の構 造変化とよく共役した構造変化が起こっていることがわかっており、生理機能の発現過程でどのような役割を果たして いるかに注目して観測する。最後に heme の側鎖やプロトンポンプ経路上のアミノ酸残基についても、かなり詳しく同定ができているので、輸送経路がどのようなダイナミクスで駆動されているかも観測する。さらに様々な中間体からの酸素の還元反応とそれに共役したプロトンポンプのダイナミクスをあきらかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
赤外分光用フローセルが完成し、人工酸素肺のを使った酵素反応を時間分解赤外測定できる準備が整ったので、実際に時間分解赤外分光測定を行うために研究費を使用する。特に、試料のCcOは赤外測定のためには、極めて多量に必要となる。精製に必要な試薬代などふくめて1回の測定に数万円程度必要である。また、フローセルなどの測定システムは消耗度が高く、それらを補充する必要がある。また、測定用光学系においても消耗品(回折格子など)があり、それらは適時置き換えていく必要がある。なお、次年度使用額は、3月に発注した消耗品の納品が4月になったことによる。
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